対人関係療法は、現在進行中の重要な対人関係に焦点を当て、対人関係上のやりとりや役割、できごとと、気持ちや症状とを関連付けて進めていく治療法です。
治療の際には、四つの問題領域のうち一つか二つを選んで治療焦点とするのが特徴です。
四つの問題領域を次に示します。
・悲哀(重要な人の死を十分に悲しめていない)
・役割をめぐる不一致(重要な人との不一致)
・役割の変化(生活上の変化にうまく適応できていない)
・対人関係の欠如(上の3つの問題領域のいずれにもあてはまらない=親しい関係がない)
もともとは、うつ病になる前の人にどういうことが起こっているかという研究からえられたものですが、他の病気を治療していく上でもあてはまることがわかってきました。
この中で「悲哀」は現在の人間関係とは関係が無いように思われるかもしれませんが、重要な人の死を適切に悲しめていないために現在の人間関係が空洞化してしまっているわけですから、やはり現在の問題です。
ここでは社会不安障害の治療において出番の多い「役割の変化」と「対人関係上の役割をめぐる不一致」についてご説明します。
なお、社会不安障害用の対人関係療法のマニュアルを作ったコロンビア大学のリプシッツは「役割不安」という第5の問題領域を提案しています。
これは、本来は能力のある領域なのにリラックスできないというような特徴を意味し、
(1)社会的孤立
(2)傷つきやすい自尊心
(3)受動性/自己主張のなさ
(4)怒りを表現することができない
(5)対立の回避
(6)リスクの回避
(7)社交やパフォーマンスのポジティブな側面を楽しむことができない
という要素が含まれる概念です。
ほとんどの社会不安障害の患者さんが「役割不安」に該当する問題を持っており、対人関係の新しいパターンをひとつひとつ達成するなかでこの不安に取り組んでいくことになります。
※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著