社会不安障害(Social Anxiety Disorder:SAD)は、簡単にいうと「あがり症」のことです。
人前に出ると不安や緊張から「話ができなくなる」「顔が真っ赤になる」「汗が噴き出す」などの症状が表れます。
しかしこれらの症状は、「内向的」「恥ずかしがり屋」「緊張しい」などの性格的な問題として片付けられていました。
確かに、人前で緊張する経験は、多くの日本人がしていることであり、性格的な部分が大きいでしょう。
しかし通常は、いくら緊張する場面であれ、経験を積んでいくと慣れてあまり緊張しなくなります。
ところが、社会不安障害の人は「慣れる」ということがありません。
それどころか、ますます苦痛になり、日常生活にも支障が出てきてしまいます。
しかし本人は「自分の心が弱いからではないか」「こんな悩みを人に相談してもしかたがない」「きっとそのうち治るだろう」と、苦痛を周りに訴えることもなく、ひとりで抱え込んでしまう傾向にあったのです。
しかしながら、社会不安障害は病気です。
性格の問題ではありません。
「あがり症」は立派な病気であり、そして、治療すれば必ず治るのです。
これが本サイトでお伝えしたいメッセージです。
あがり症とは社会不安障害という病気であり、そして治療可能であるということを多くの人に知ってもらい、苦しんでいる人達が少しでも楽になる手助けができればと思っています。
そしてもうひとつ、ぜひお伝えしたいメッセージがあります。
それは、社会不安障害の人達は、社会にとって必要不可欠な存在であるということです。
これは臨床医が多くの社会不安障害の人達と接し、治療しているうちにたどり着いた答えです。
社会不安障害は不安のメカニズムを持った必要不可欠な存在
東日本大震災のときに感じたのが災害などのピンチに立たされた時の行動として、人間には大きく分けて2つのタイプがあるということでした。
ひとつは大慌てして逃げるAタイプ。
もうひとつが、静かにその場にとどまるBタイプです。
Aタイプの人達は、「助けて!」などと大きな声を出し、一目散にその場を離れようとする人達です。
地震が起こると真っ先に家を飛び出したり、車に飛び乗ってどこか遠くまで逃げようと考えます。
対してBタイプの人達は、逃げ出すことができずに、その場にとどまってしまう人達です。
地震が起こると机の下に隠れ、そこから出てくることができなかったり、怖くなって体が硬直してしまい、じっと時がたつのを待つしかないというタイプです。
どちらのタイプが正解なのかは分かりません。
ただひとついえることは、これが人間の多様性ということであり、素晴らしさであるということです。
災害などの時、全ての人間が同じタイプであったとしたら、最悪の場合、全滅してしまうということも考えられます。
しかし、2つのタイプがいることによって、全滅が避けられ、種の保存ができるようになっているのではないでしょうか。
そしてBタイプに含まれるのが、社会不安障害の人達です。
社会不安障害の人達は、社会生活で必要不可欠である「不安」のメカニズムを脳内に組み込んでいる人達であると考えられます。
確かに、集団の中でフリーズしてしまったり、取り残されてしまうことがあります。
ですが、その種は温存されるかもしれません。
これはあくまで個人的な考えです。
何が正解なのかは分かりません。
しかし、社会不安障害の人が、社会にとって必要な人達であることは確かなことだと思っています。
社会不安障害の人は周りに気配りができる真面目で優秀な人
社会不安障害の人は、自分の能力を認めてくれる会社や居場所を探すことが重要です。
彼らの能力は、正当に評価されるべきであり、企業や組織は彼らを正当に評価しなければならないと思っています。
ある場所では、あえて社会不安障害の人を採用ところがあります。
それは、彼らが真面目で頭が良く、気配りがきく人達だからです。
社会不安障害の人は仕事ができる優秀な人が多く、その仕事内容は綿密でミスがありません。
おおざっぱな性格の人が気付かなかったことに気付き、暴走しがちなひとにブレーキをかけたり警告をしてくれたりします。
おおざっぱなひとだったらミスもします。
また、おおざっぱな人だけの会社はつぶれてしまうでしょう。
社会不安障害の人がいるおかげでバランスがとれ、組織としてうまく機能しているのです。
つまり、組織を強固なものにするためには、社会不安障害の人が必要であると言っても過言ではないのです。
ある場所の事務で働くAさんは「あれやって!」「これやって!」と勢いよく指示をすると、体がフリーズしてしまいます。
一度にわーっと言われると、責め立てられたように感じ、緊張を覚えるためです。
キャッチボールをするように言葉を瞬間的に返すことができないせいで、以前いた職場ではとても低い評価を受けていたようです。
しかし、ていねいに説明しながら指示すると、数日後には、こちらの要求を完璧に理解した結果を出してくれます。
例えば、資料作りや経理作業、データ解析といった作業は、緻密でミスも少なく、まさにかゆいところに手の届いた、申し分のない仕上がりであることがほとんどです。
Aさんは典型的な社会不安障害です。
目立たず控えめ、真面目で人を裏切りません。
ただ、人と接することが苦手で少々混乱しやすい性格だというだけです。
人と接するような仕事に就かせない、人前で発表する機会を設けない、仕事を依頼するときはスケジュールに余裕を持つなど、Aさんを理解した職場環境を整えれば、期待以上の結果を出してくれるのです。
社会不安障害の可能性、社会的損失を意識したら即治療へ
社会不安障害は集団の中に一定数いる一群であり、社会を構成するひとつのグループです。
ぜひ、彼らの特徴を長所と捉え、社会も受け入れるべきだと思います。
社会不安障害は、周りの人や会社に理解され、受け入れられていたり、本人が症状と上手に付き合っていれば、そのままでも特に問題はないのです。
しかし、現実には、なかなかそうはいきません。
実際の社会生活では、大きなプレゼンができない人は出世が困難ですし、人とうまく会話できない人は人間関係が上手く構築できないでしょう。
なにより、本人が生きづらさを感じるはずです。
社会不安障害は治る病気です。
本人が苦痛を感じていたり、生活に不便や困難な状況が生じていたりしているなど、社会的損失が出ているのであればすぐにでも治療すべきです。
社会不安障害は特効薬で劇的に改善する
社会不安障害には特効薬があります。
それが抗うつ剤の一種であるSSRIです。
この薬の登場により、社会不安障害は劇的によく治るようになりました。
もちろん、症状が複雑化しているケースや、発症から時間がたってしまっているケースなど、薬を飲んでもすぐには結果が出ない場合もあります。
それでも、他の精神障害や不安障害に比べて、社会不安障害は格段に治る病気であるといえます。
社会不安障害が治ると、違う世界が広がります。
元来、目立ちたがり屋で負けず嫌いですから、がんばって出世するかもしれません。
真面目で気配りができる人なので、素敵な人に出会うかもしれません。
とにかく、明るい未来が待っていることは約束されています。
社会不安障害の人達が、自分に自信を持ち、治療という一歩を踏み出し、苦しみから解放される日がくることを切に願っています。
※参考文献:あがり症のあなたは<社交不安障害>という病気。でも治せます! 渡部芳徳著