薬物療法とともに社会不安障害の重要な治療法となるのが「心理療法」です。
心理療法には多くの種類がありますが、その中で、現在、社会不安障害を含む不安障害の治療に用いられる代表的なものは、認知行動療法と自律訓練法です。
この二つに「交流分析」(人の一連の行動を導く感情と思考のシステムである「自我状態」や、それに伴うコミュニケーションのパターンなどを分析する)を合わせて、心療内科で行う心理療法の三本柱とされますが、社会不安障害には、とくに前者二つが効果的なことが知られています。
2017年時点では、不安をを客観視するマインドフルネス療法も注目を浴びつつあります。
ほかに、日本独特の心理療法(精神療法)として「森田療法」もあります。
これは、「ありのままの自分を認める」という観点から、「症状を持ちながらも、普段の生活を前向きに進める」「いまできることから始める」などを基本方針とする療法で、社会不安障害に有効ですが、行っている医療機関は限られています。
ここでは、以下、認知行動療法と自律訓練法についてお話ししましょう。
最近では、社会不安障害という病気の認知度が高まってきたこともあって、社会不安障害やその予備軍と思われる患者さんの中で認知行動療法や自律訓練法を行って成果をあげていることが多くなってきました。
心理療法や精神療法というと、「精神分析」のイメージを思い浮かべる人が多いかもしれません。精神分析は、過去の体験や出来事を深く掘り下げ、問題の根を見つけていく手法です。
しかし、認知行動療法では、精神分析のように、過去の体験や出来事を掘り下げることより、患者さんのいま現在の行動を変容させたり、考え方を変えたりすることが主体となります。
その基本になっているのは、「認知の組み合わせでその人が成り立っている」という考え方です。
その認知、ひいては思考のパターンを変えることで、その人が変わっていくと考えるのです。
たとえば、「電車に乗ると、まわりの人の視線が気になる」「自分に変なところがあるからではないか」「変なことをしないようにしなければ」という認知や思考パターンがあるなら、いくつかの具体的な訓練法を通じて、「本当に周りの人が自分を見ているのか」「そんなに見てないのではないか」「多少、見ていたとしても、そんなに緊張しなくてもいいのでは」というふうに、認知や思考パターンを変えていきます。
治療者やカウンセラーが相談者の気持ちに沿って後ろからついていくというよりは、どちらかというと、もう少し指示的・訓練的なやり方です。
指示や訓練を行って、よりよい行動や歪みのない考え方ができるようにし、最終的には、社会不安障害の患者さん自身が主体になってそれを実践できるようにしていきます。
治療者は患者さんの「気持ち」を支えるだけではなく、ともに不安や恐怖の程度を調べ、症状がどの程度緩和しているのかを模索しながら、社会不安障害の患者さんの自己制御、自己コントロールを目指します。
それが達成できるまで、適切な方法で意欲的に続けられるようにサポートしていくのです。
いま社会不安障害の患者さんが困っているところを変えていく実践的な療法であり、「結果の出る医療」として、また、比較的短期間で成果が現れやすい方法として注目されています。
※参考文献:人の目が怖い「社会不安障害」を治す本 三木治 細谷紀江共著