国際疾病分類第10改訂版(ICD-10)は不安障害を恐怖症性不安障害と他の不安障害に大別します。

そして前者の恐怖症性不安障害をagoraphobia, social phobia, specific(isolated) phobiaの3つに分類しています。

ここでの主題である「社会不安障害」は前者の中の一つ、social phobia(社会恐怖)にほぼ該当します。

パニック発作とagoraphobia(広場恐怖)を独立した疾患と考えず、パニック発作は不安の、広場恐怖は恐怖対象回避の最も重要の症状とされています。

一方、精神障害の分類と診断の手引き第4版(DSM-Ⅳ)は、ICD-10のように不安障害を大別せず、パニック障害(広場恐怖を伴うもの、伴わないもの)につづけて、ICD-10の恐怖症性不安障害に該当するspecific phobia と social phobiaを列挙するが、agoraphobiaはパニック障害(panic disorder:PD)に合併する症状として位置づけられています。

ただし、不全パニック発作および症状にとどまる症状と合併する「PD合併歴のない広場恐怖(agoraphobia without history of panic disorder)」が設けられています(これはPD様症状を伴う広場恐怖とするのがわかりやすいでしょう)。

ところで「社会不安障害」という病名はDSM-Ⅲ以来 social phobiaとしてきたものを、DSM-Ⅳになってsocial phobia(social anixiety disorder)として導入されたことに端を発しています。

日本ではこれが社会恐怖(社会不安障害)として使用されるようになったものです。

以下、DSM-Ⅳの社会恐怖(社会不安障害)とICD-10の社会恐怖(社会不安障害)の概念や診断基準、その異同について述べることにします。

DSM-ⅣとICD-10の社会恐怖または社会不安障害

1.社会恐怖または社会不安障害の症候学的概要

恐怖症では恐怖を体験する状況と恐怖体験の内容が重要です。

DSM-Ⅳではその状況を対人または社交場面と人前で何らかのパフォーマンスをおこなう場面と定義しています。

その状況に今あるいはあらかじめさらされると、決まって不安が引き起こされます。

その恐怖は顕著で持続的なもので、耐えがたく常軌を逸したほどのものなので、その状況は必ずといってよいほど回避され、それが苦痛を伴って持続することも少なくない。

しかもその状況にさらされることを不安げに予期したり、脅威を感じたり、さけようとするために日常生活、仕事、対人関係が妨げられます。

以上がDSM-Ⅳの社会恐怖(社会不安障害)患者の症候の概要です。

このかぎりではICD-10も概略同じです。

2.恐怖を惹起する状況

脅威を感じるような対人または社交場面あるいは人前で何らかのパフォーマンスをおこなう場面にさらされると、社会不安障害の患者さんは当惑するような懸念を体験し、他者が自分を不安げでひ弱で「狂っている」あるいは「馬鹿げている」とみなすのではないかと心配します。

他者に手や声が震えているのを気づかれたり会話中にしどろもどろになってしまうのではと非常な不安を感じるために、人前で話すことが脅威になってしまいます。

ICD-10でも大勢の人混みではなく比較的少人数の集団内で他者から注視される恐れを恐怖の中核としています。

この少人数集団の前であるとの特定はDAM-Ⅳでは強調されていません。

そういう状況は限定的な状況(人前での食事やスピーチ、あるいは異性と出会うことなど)にかぎらず家族以外のすべての社会状況であり得ます。

文化によっては直接目と目をあわせなければならない状況も恐怖状況の一つとなり得ます。

DSM-ⅣもICD-10も、対人状況における自己の所作に伴う当惑が他者に観察され、気付かれ、低い評価や批判を受けることの脅威を恐怖の中核としています。

その結果として、心悸亢進、振戦、発汗、胃腸の不快、下痢、筋緊張、赤面、取り乱しなどの不安症状を体験します。

重症例ではパニック発作レベルの症状になります。

赤面は比較的よくみられることのある症状とされています。

この二次的症状が恐怖の対象になることはDSM-Ⅳでは考えられていないが、ICD-10では二次的症状の一つを一時的な問題と確信していることが時にあることが言及されています。

これは赤面恐怖などが該当すると考えられますが、ここには何を恐怖の対象とするかや、恐怖症の分類の基本的な問題が含まれています。

3.状況の回避

そして、たとえば人に手の震えを見られる恐怖のために、人前で食べたり、飲んだり、字を書くことを回避してしまうのです。

脅威を感じる社会状況をすべて避けようとします。

その状況にさらされることが予期されると数週間も前から強い予期不安に襲われます。

予期不安と状況不安が悪循環を形成し、苦手な社会状況では必要なことがいっそうできなくなり、苦手な状況への過敏性と恐怖が強まるのです。

※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著