社会不安障害に悩む人はどのくらいいるのか

社会不安障害がこれほど大きな注目を浴びたのも、潜在患者が非常に多いという研究報告が出されたせいです。
それに悩む当事者や治療する医師の側だけでなく、その治療薬を製造している製薬会社にとっても患者が非常に多いということが大きなビジネスチャンスにもなるのは当然のことです。

わが国で対人恐怖症という形で研究が行われた以外には、欧米ではほとんど無視されていた社交不安が、1996年代末に社会恐怖という形で再登場した時には、ごくまれな病気と考えられていました。
実際、1980年に社会恐怖という形で再登場したときには、ごくまれな病気と考えられていました。
実際、1980年に社会恐怖を初めて正式な病名として採用したアメリカの診断基準でも、比較的まれな病気と見なしていました。
大勢の前や目上の人と接するときに不安や緊張を覚えるのは人間にとって自然なことです。
人間ばかりでなく他の動物でもこれに似た現象はあります。

病気としての社交不安、すなわち社会不安障害に人知れず悩む人はどのくらいいるのでしょうか。
実は重い精神病などと異なり、症状があっても受診しないことが多い不安障害や軽いうつ病に悩む人がどのくらいいるのかは、客観的な診断の基準が登場するまであまりわかってはいませんでした。
アメリカで1980年にDSM-Ⅲと呼ばれる診断のマニュアルが登場したことにより、調査員が一定の質問票を用いて一般の地域住民の中に様々な心の病気がどのくらい隠れているかを調査することが可能となりました。

こうした方法で最初にアメリカで行われた有名な研究がECAと省略される疫学的キャッチメントエリア研究と呼ばれるものでした。
これはアメリカの5つの地域で生活する18歳以上の成人約1万8千人を対象とした大規模な調査研究で、当時精神科の疫学的な研究をリードしていたコロンビア大学のワイスマン教授のグループが中心になって行われました。
このときの調査には診断面接スケジュールという調査票が用いられました。
また、この調査には恐怖症の項目の中に3つの社会的場面を想定した社会恐怖に関する質問も含まれていました。

たた3つの場面しか想定していなかったため、この調査での社会恐怖の生涯有病率、すなわち調査のじてんまでに一回でも社会恐怖と診断される病状があった人の率は約2.4%と、他の不安障害と変わらない数字でした。
同じく80年代で行われた他の研究でも、社会恐怖の生涯有病率は1~4%とほぼ同じような結果になっています。
この時点では社会恐怖はまったく世間の注目を浴びることはありませんでした。

また、同じ方法を用いて台湾や韓国で行われた調査でも、調査時点までに社会恐怖に罹ったとおもわれる人の率は、それぞれわずかに0.5%と0.6%という驚くべきほど低い数字でした。
台湾や韓国ではわが国と同様の対人恐怖症が報告されていましたが、欧米の新たな視点で登場した病気である社会恐怖は非常に少ないという結果でした。

※参考文献:社会不安障害 田島治著