社会不安障害に限らず、対人関係療法の効果は、治療終結後に伸びることが知られています。

治療期間中に必要なことを学んだら、あとは日常の人間関係のなかでそれを繰り返し実践していくと、だんだんと実力になり、自信がついてくる、ということなのだと考えられています。

特に社会不安障害の場合は、ずいぶん長い間病気特有のパターンのなかで暮らしてきているわけですから、「勇気を出して話してみると、思ったよりもよい結果がえられます」と言われても、そして、実際によい結果が得られても、一回や二回では納得できないのが当たり前です。

「たまたまうまくいったのだろう」と思う時期を通って、いつの日か、「本当にうまくいくのかもしれない」と思えるようになるのです。

それは必要なプロセスであって、近道はないのだと思います。

すべての病気には何かしら学べる要素があるかもしれません。

うつ病からは、「休んでも大丈夫」「人に頼っても大丈夫」ということを学べますし、摂食障害からは「マイペースでも大丈夫」「人に自分の気持ちを話しても大丈夫」ということを学ぶことができます。

病気は確かに苦しいものですが、病気にでもならない限り学べないことも確かにあるのです。

では、社会不安障害からは何が学べるでしょうか。

「人間性の受容」が学べるという見方があります。

相手そのものに関心を向けることは、社会不安障害の症状を薬にします。

また、相手の不完全さを受け入れることも、社会不安障害の治療にプラスです。

人間としての相手を見て、相手が実際に感じていることを知り、受け入れていく、というプロセスが、成功する治療のなかでは必ず起こります。

そして、その結果として、社会不安障害をこじらせている、自分に対する評価も手放すことができるのです。

人前で話す時に緊張するのは、恥かしいことではなく、むしろ人間らしいことなのだと、自分自身のことも受け入れられるようになると、社会不安障害は治ります。

こうして見てみると、社会不安障害の治療に近道がないとしても、絶望すべきことではないと思えるのではないでしょうか。

日々のプロセスのなかで、社会不安障害という強烈な環境を与えられ、人間性の受容を学んでいるのだ、と思えれば、ただの不運な病気という以外の側面を見ることができると思います。

ここで紹介した対人関係療法は、まだまだ「どこででも受けられる治療法」ではありません。

現時点でのお勧めは、抗うつ剤を服用すること(これはどの地域でも可能です)、そして、認知行動療法を受けられるところがあれば受けること、となります。

でも、認知行動療法を受けられるところが見当たらない、試してみたけれどもだめだった方はできるだけ安心感の持てる治療者(この人にだったら何を話しても大丈夫だと思える治療者)を見つけて下さい。

人間として信頼できる、安心できる、と思える治療者は見つかると思います。

ポイントは、
1.「何を考えているのかわからない」タイプではなく、自分の味方になってくれていることがよくわかる人

2.社会不安障害を病気として扱ってくれて、その病気の症状による自分の苦しみをわかってくれる人

3.批判的ではなく温かい人

です。

そのような治療者を見つけたら、その治療のなかで、「ちょっと違うな」と思うときには何とかして伝えてみるように心掛けてみてください。

また、できないと感じることは「できないかもしれない」と伝えてみて下さい。

いつも完璧に伝えられなくてもよいのです。

一度でも伝えることができれば、そして理解してもらうことができれば、全く新しい体験として自信の源になるでしょう。

少しずつの取り組みで十分です。

まずは「心がける」ところから始めてみてください。

善き治療者を見つけることをなぜ勧めるのかというと、治療関係は、あらゆる関係のなかでもっとも安全なものになりうるからです。

患者さんに安心を提供するということに治療者が専念できる特別な場なのです。

新たなチャレンジは、できるだけハードルを低くして始めることが必要であり、患者さんの安心に専念できる場所から新しいパターンを始めてみるのはとてもよいことです。

そして、相手は治療者という特別な立場の人だということを差し引いても、新しいやり取りから感じられる温かさと力強さは、理屈を超えて身体に染み入ることでしょう。

※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著