「人前で何かをするとき、あるいは人と接するとき、過度に緊張して手や声の震え、動悸、発汗、顔の紅潮などが起こる」
「それを苦にして人前での行動や人との接触をさけるようになる」
こういった現象はこれまで、「緊張しやすい性格」「人付き合いが苦手なキャラクター」であり、「性格だからしようがない」といった捉え方をされてきました。
日本では、その一部を「対人恐怖症」「あがり症」「赤面恐怖症」などと呼んできましたが、これらもなかば性格・体質的な問題とされ、ハッキリした診断・治療法は確立されてきませんでした。
いずれにせよ、悩んでいる本人はもちろん、医師や臨床心理士といった専門家たちも、先にあげた症状を治療の対象とは見てこなかったのです。
ところが、世界的に用いられている米国精神医学会の診断基準「DSM-Ⅳ」に、こうした症状が「社会不安障害」として記載されたこと、大規模な疫学調査(病気や健康状態について広い地域や多数の集団を対象とし、その原因や発声状態を統計学的に明らかにする調査)で、予想をはるかに上回る有病率(3~13%)が確認されたことから、にわかに注目を浴び始めました。
薬物療法の有効性を示すエビデンス(科学的根拠)が次々に出てくるとともに、心理療法の一種である「認知行動療法」が、改善に役立つとわかってきたことも、その認知度の上昇を促しました。
人前や人と接する場面で過度に緊張して、大きな苦痛や社会生活上の制限・支障を余儀なくされてきた人たちにとって、これは福音といえる出来事です。
その苦痛や支障が、「あきらめるしかない性格上の問題」から、「世界的に認知された治療し得る病気」へと変わったのですから。
実際に、社会不安障害(Social Anxiety Disorderを略して「SAD」といいます)を治療した患者さんたちは、それまでのつらさ・苦しさから解放され、社会生活上の制限や支障も軽減・解消されて、非常にお喜びになります。
なかには、「人生が変わった」というほど、明るく前向きに変貌される人もおられます。
厳密には、「人生が変わった」のではなく、「本来の人生に戻った」というべきかもしれません。
社会不安障害は、その人本来の実力や才能、前向きで積極的な思考や姿勢を障害する存在にほかならないからです。
社会不安障害は、社会問題となっている引きこもりやニート(就労、就学、職業訓練のいずれも行っていない人)とも関係しているのではないかといわれています。
また、うつ病やアルコール依存症と合併しやすいこと、合併すると自殺率が高まることもわかってきました。
このように、社会不安障害とその周辺疾患に関しては、新しいことが続々と判明し、ますます目が離せなくなっています。
しかし、昔から対人恐怖症などの存在が知られたお国柄にもかかわらず、日本は社会不安障害の研究について、欧米に二歩も三歩も遅れをとっています。
その存在すら、患者さんや家族だけでなく、専門家の間にもじゅうぶんには知られていないのが現状です。
社会不安障害は精神疾患ですが、患者さんは、そこから派生した様々な症状に悩んでおられます。
社会不安障害自体の認知度がまだまだ低い現状を考え合わせると、患者さんは、あらゆる科を訪れる可能性があるでしょう。
「性格だと諦めなくていい」
「その人に合う方法でじゅうぶんに治療できる」
社会不安障害に関するそうした事実が広く知られる一助となれば幸いです。
それを通じ、社会不安障害を克服して「本来のその人らしい生き方」のできるひとが、一人でも多くなるようなサイトだと思っています。
※参考文献:人の目が怖い「社会不安障害」を治す本 三木治 細谷紀江共著