社会不安障害の薬物療法にはベンゾジアゼピン系抗不安薬やモノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)も有効であるが、現在は有効性と安全性、忍容性の点から選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択薬となっています。
2005年時点で、プラセボを対照とした無作為化対照試験でフルボキサミン、パロキセチン、sertralineのSADに対する有効性が報告されています。
他のSSRIであるcitalopram,fluoxetineの有効性もオープン試験では報告されているが、2005年時点では無作為化対照試験でそれらの効果はまだ確認されていません。
SSRIは抗うつ剤として開発されたが、その後さまざまな不安障害に対する有効性が確認されました。
社会不安障害の他、パニック障害、全般性不安障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害などのほとんどすべての不安障害亜型の治療に有効であることが明らかとなりました。
SSRIの適応範囲は古典的な抗不安剤であるベンゾジアゼピン抗不安剤よりむしろ広範囲です。
そのような観点から、SSRIこそむしろ抗不安剤とよばれることがふさわしいとすらいえます。
SSRIがどのように不安障害の症状を改善するのかについてはまだ十分に解明されておらず、SSRIの不安障害に対する有効性が臨床的に明らかになった後も、SSRIの作用機序に関する仮設が提出されることはありませんでした。
SSRIはその名が示すとおり、セロトニンに特異的に作用する薬剤であることから、その不安障害に対する効果がセロトニンに対する作用を介していることは明らかであるとともに、一歩進んで不安障害の病因・病態にセロトニンの異常が関与しているという推定も成り立ちます。
PETなどで社会不安障害の患者さんの脳でセロトニンの異常を指摘した研究はこれまでないが、社会不安障害の患者さんにセロトニン作動性薬物を負荷して不安症状や内分泌の変化を検討した研究で、社会不安障害でセロトニン系の異常が示唆されます。
しかし、このような研究結果が社会不安障害の患者さんの脳における異常を直接反映しているかどうかは、いまだ不明であるといわざるを得ないのです。
不安障害の患者さんは身体の変化に敏感であるのは臨床的には常識であり、これらの薬物の末梢経由の効果は否定できません。
したがって、社会不安障害の患者さんでは、セロトニンの異常があってSSRIがその異常を是正するのか、SSRIは異常の有無にかかわらず効果を発するのかは現時点では不明であるし、両方の可能性が考えられます。
※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著