社会不安障害に悩んだ日本人の芸能人(有名人)

お笑いタレントで独特の才能を発揮している東貴博さんは、大変なあがり症だったそうです。

初めて客の前に立ったときは、緊張に耐えられず、すぐに舞台を降りてしまい、テレビの出演依頼がきても断るなど、回避行動をとっていたそうです。

でも、これではいけないと発奮して、一年半ほど日光江戸村の時代劇に出演させてもらって、あがり症を克服したそうです。

世間ではまだあまりよく知られていない病気や差別、偏見の対象となりやすい病気の場合、社会的に影響力のある芸能人(有名人)が、実は私も長年その病気で苦しんでいましたとカミングアウトすることは、大きなインパクトがあります。

世間からスティグマ(個人に不名誉や屈辱を引き起こす烙印)を受けやすい心の病気の場合、こんな芸能人(有名人)もこの病気で悩んでいましたと、当事者のサポートグループのホームページではよく紹介されています。

社会不安障害に悩んだ海外の芸能人(有名人)

次に伝記や本人の話から、日本人にもなじみのある三人の海外の有名人を紹介したいと思います。

1.南極探検家ロバート・スコット

今や中高年が気軽にシルクロードの旅やエベレストのトレッキングを楽しむ時代となり、秘境や極地への冒険や探検という言葉も成り立たなくなってきました。

ニ十世紀初頭の極地到達のレースでノルウェイのアムンセンと争い、南極点到達をはたすものの遭難し悲劇の主人公となったイギリスの海軍士官ロバート・ファルコン・スコットをご存知でしょうか。

団塊の世代以上の方はこの顛末を描いた本をお読みになったことがあるかもしれません。

実は1912年に南極到達後に悲劇の遭難死を遂げた彼は極度の社会不安障害と社交性の欠如が知られていた人物でした。

スコット隊に同行した医師であるウィリアム・ウィルソンが後に語っています。

「彼がたとえ生還できたとしても普通の社会生活を営むのは難しかったと思います。

彼は日記にパーティーに出る前には鎮静剤を飲んでいたことを記していますし、伝記作家の一人は彼にとって聴衆の前に立つことは大きなクレバスを渡るよりも勇気がいることだったと書いています」

2、ハムレット俳優ローレンス・オリビエ

英国を代表する名優でバロンにも叙せられたローレンス・オリビエもいわゆるステージフライト(舞台恐怖症)で始まった社会不安障害に五年間苦しんだことを、自伝の中で回想しています。

彼はハリウッド映画にも登場していますが、『嵐が丘』の主人公ヒースクリフやシェイクスピアの『ヘンリー5世』や『ハムレット』で主役を演じたのはご存知の方も多いと思います。

彼が発症したのは、ロンドンの国立劇場で俳優としてだけでなく舞台監督としても活躍していた最も脂の乗りきった時期です。

非常に疲れていて舞台でセリフが思い出せなかったらどうしようという不安が頭に浮かんだのが発症のきっかけでした。

3、バーブラ・ストライサンド

映画「ファニー・ガール」やロバート・レッドフォードと共演した「追憶」などで数多くの賞を受賞した歌手、女優、監督でもあるバーブラ・ストライサンドも、ローレンス・オリビエと同じくステージフライトで始まった社会不安障害に長年悩んでいた有名人の一人です。

じつは世間では彼女のこうした悩みは知られておらず、ユダヤ系アメリカ人として政治的な姿勢を明確に表明していた彼女への脅迫行為が多発していたため、レコードと映画を活動の中心とし、1967年以降舞台には出演せず、1970年代から1990年代前半にかけてはコンサート活動からも遠ざかったと考えられていました。

もちろんこうした政治的な背景も彼女が表舞台から遠ざかった理由のひとつかもしれませんが、実は社会不安障害が大きな原因となっていたのです。

アメリカを代表する歌手でもあった彼女は、1967年にニューヨークのセントラルパークでコンサートを行いましたが、彼女はそのとき数曲の歌詞を忘れてしまったのです。

これが強い恐怖体験となって、その後大勢の前で歌うと歌詞を間違えてしまい恥をかくのではないかと不安になり、コンサートや舞台に立つことができなくなってしまったのです。

それから社会不安障害の為、20年以上も表舞台から遠ざかっていましたが、ステージフライトの対処法を学び、1994年には復帰のツアーを行うことができました。

最初はごく少人数のショーから始めて徐々に恐怖感に打ち勝つトレーニングを行い、全米ツアーから最後はテレビ出演まで可能となったのです。

こうした段階的な一種の暴露療法の積み重ねによって、歌や演技に好意的な反応を得ることで自信を深め、恐怖反応の自動思考から逃れることができるようになったのです。

しかし社会不安障害の為、こうしたみなさんもご存知の、こんな芸能人(有名人)もこの病気で悩んでいました式のホームページはたくさんありますが、それをそのまま鵜呑みにするのも問題があります。

欧米の様々な心の病気に関するホームページを見ると、日本人にはなじみのない芸能人(有名人)も含めて、様々な人々の名前が挙げられています。

それには本人自身のカミングアウトによるものや、病蹟学と呼ばれる著名人の精神病理を精神医学的な立場から研究する学問の検討を経たものから、単なる推測に過ぎないものまで雑多な情報が含まれています。

特に欧米では新規の薬剤の開発とともに、大きなマーケティングの対象となってきている双極性障害の場合には、驚くほど様々な有名人の名前が紹介されています。

こんな芸能人(有名人)もこの病気で悩んでいましたということで、その疾患に対するスティグマを軽減しようとするマーケティングの戦略のひとつとも言えます。

ですから、膨大な情報が氾濫するインターネットを利用して適切な知識を得るためには、メディア・リテラシーなどと呼ばれる、情報を批判的に読み取る態度と能力が必要な時代となっているのです。

※参考文献:社会不安障害 田島治著