引きこもりと社会不安障害
30万人とも100万人とも言われる引きこもりは今やわが国での大きな社会問題になっています。
ふとうこうから始まる若い方の引きこもりはもちろん多いのですが、実は30代以上から中年まで引きこもりの方の年齢にはかなり幅がありますし、当然のことながら年々平均年齢は上がっています。
ご存知のように引きこもりは明らかな原因や心の病気がないにもかかわらず半年以上社会との接触を避け引きこもっている状態と定義されています。
ところが最近の調査では引きこもりの当事者の多くが病的なこだわりや対人不安、うつ、家庭内暴力などの精神的な問題が目立つことがわかっています。
特に家族以外の他人との接触を回避するという点において、隠れた社会不安障害があるのではないかと考えるのは当然のことかもしれません。
筆者も2006年に名古屋で開催された引きこもりに悩む方の親の全国大会で「社会不安障害と引きこもり」というテーマで基調講演を行いました。
なかなか解決の糸口の見つからない引きこもりの問題に対して、社会不安障害の治療という医療からのアプローチで社会に再び戻すことができるのではないかという主張への期待は大きく、親の方々の熱意も予想以上でした。
医師の著者自身も引きこもりの相談を受け、社会不安障害が引きこもりの大きな原因となっている方を何人も経験し治療しています。
引きこもりの方の社会不安障害はどちらかといえば昔から日本で言われる対人恐怖症の特徴を有する方が多いように思います。
すなわち自分の視線や表情、態度あるいは存在そのものが周囲の人に不快感を与えているという病的な確信が中心にあるため人との関わりを避けざるを得なくなり、人と関わりたいというもう一方の欲求とのジレンマに悩みながら次第に抑うつ的となっていくのです。
多くの方が回避性の人格障害の特徴も有しています。
筆者は、社会不安障害に効果のある認知行動療法的なアプローチとSSRIを中心とした薬物療法を行うことにより、こうした方の対人不安が軽減し、引きこもりから脱却できた例をかなり経験しています。
※参考文献:社会不安障害 田島治著