社会不安障害と対人恐怖症

自己主張か、他人への配慮か?

この対人恐怖症と社会不安障害の関係については、おなじものなのか、違うものなのか、なかなかむずかしい論点を含む問題です。

対人恐怖症、人を恐がるということのなかでも重症の患者さんでは、妄想性障害などが関連しているケースも見られます。
軽度から中度の対人恐怖症と社会不安障害とでは、かなり似ているところがあると考えられます。
ただ、対人場面で不安を感じ、そういった場面を回避しようとするという点では共通しているのですが、基本的なコンセプトの違いがあるように考えられます。

すなわち、社会不安障害は、人前で何らかのパフォーマンスをすることについての不安、そこで恥ずかしい思いをするのではないかという不安が中心で、あえていえば「自己主張的」なアメリカ的思考パターンを反映している見方のように感じられます。
一方、対人恐怖症は、自分の外見や臭いを気にしたり、相手に失礼な態度になっていないかと心配したり、他人の目が気になったりする、「他者配慮的」な考え方が中心で、対人関係を重視する日本的な思考パターンを反映しているように思えます。

これは精神的なトラブルや悩み全般についていえることですが、現在の精神医学では、原因がはっきりとはわかっていないこともあって、それぞれの患者さんにどのような症状が出ているのかを見定めて、対処していくという考え方が中心になっています。

疾患名だけにとらわれるよりも、まず、今その人が、仕事や勉強、暮らしのなかで、どんなことに困ったり悩んだりしているのかを明らかにしていく。
そして、そういった生活上の支障を、解決したり、和らげたりしていくためには、どのような対策や工夫がかんがえられるのか、なるべく具体的に考え、少しずつでも実行していくことが大切です。

参考文献:不安症を治す 大野裕著