回復のための2つの柱
薬の力を上手に借りる
ここでは、社会不安障害の治療法について説明します。
社会不安障害の治療としては現在、大きく分けて、薬物療法と精神療法の2つがあります。
薬物療法というのは、薬によって社会不安障害の症状をコントロールし、改善を図る治療法です。
主に使用する薬に、SSRI、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、βブロッカーなどがあります。
フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリンなどのSSRI(2007年当時)は、新しいタイプのうつ病治療薬として開発され1980年代に欧米で使われ始めた薬で、脳内伝達物質であるセロトニンに関係した神経系を調節する働きをします。
SSRIは、うつ病だけでなく、不安症状などに対しても効果があることから、最近になって日本でもフルボキサミン(商品名ルボックス、デプロメール)が、社会不安障害の治療薬としても認可され、使用できるようになりました。(2007年当時)
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、不安や緊張を和らげるためにわが国でも広く使われている薬です。
依存性があるために、とくに欧米では処方に厳しい見方をされていますが、服用後、比較的短時間で効果が表れ、とくに身体に表れる症状に効果的だということもあって、慎重に使えば効果が期待される薬です。
βブロッカーは、交感神経に作用して不安や緊張の症状として表れる動悸やふるえなどの身体症状を抑制する薬です。
大勢の前で話すのが苦痛など、あらかじめ予想できる特定の場面で不安を抑えるために「頓服薬」として使用されることがあります。
外来診療で薬を飲むようにすすめると、そうしたものに頼りたくないという人がいます。
しかし、薬を飲むことは、必ずしも薬の力だけに頼るということではありません。
というのも、薬は効果的で役に立つものですが、それですべてが解決するわけではないからです。
薬物療法で大事なのは、薬を使いながら自分の力をうまく発揮できるようにすることです。
その意味では、薬は心の力を育てるための手助けの一つと考えるのがいいでしょう。
いちばん危険なのは「自分の頭の中」
一方、精神療法は心理療法、カウンセリングとも呼ばれ、患者さんと医師などの治療者の話し合いによって問題を解決していく方法です。
ここでは、精神療法の一つで、社会不安障害への効果が認められている認知療法を紹介します。
認知療法は、認知行動療法ともいわれます。
認知、つまりものの考え方や受け取り方を変えて問題に柔軟に対処することで、うつや不安などの症状を軽くする治療法です。
もともとはうつ病の治療に効果があることで注目された方法ですが、その後、社会不安障害などの不安障害やストレス関連障害など多くの精神疾患にも効果があることがわかってきました。
ものの考え方や受け取り方を変えると、なぜラクになるのでしょうか。
それは精神疾患に苦しんでいる人が、現実を実際以上に重くとらえすぎて苦しんでいることが多いためです。
強い不安を感じている人の多くは、周囲にいる人たちが自分のことを低く評価しているのではないか、批判的にみているのではないか、と心配しています。
しかしそのような場合、自分だけの思い込みで現実を判断していることが多く、必ずしも客観的な評価ではありません。
少し冷静になって周囲を見渡してみると、他の人は思っているほど批判的ではないし、意外と自分がうまく対応できていることがほとんどです。
社会不安障害の認知行動療法で有名なイギリスの心理臨床家であるデイビッド・クラークは、「社会不安障害の患者さんにとって大事なことは、いちばん危険なところは自分の頭の中だと気づくことだ」といっています。
また彼は、自分を一番批判しているのは周りの人ではなく自分自身であり、社会不安障害の人はそのことに苦しんでいるのだとも言っています。
つまり、社会不安障害の患者さんには、恐怖や危険を自分の頭の中でつくりあげている面があり、治療のためには、そこに気付くことが大切だと言えます。
このような自分の考え方を修正するアプローチを「認知修正法」と呼びます。
また、現実に目を向けられるようになるには、実際の現実に入っていくことが必要です。
自分で危険だと思っている現実に足を踏み入れるアプローチを「エクスポージャ(暴露)」と呼び、これが社会不安障害に対する認知行動療法の重要な技法になっています。
エクスポージャのポイントは、不安な場面をつい回避してしまうという行動を抑えることにあります。
そのために、不安を引き起こす場面えお想像したり、あるいは実際にそのような場面に身を置いたりして、ある程度の時間が経てば不安症状が次第におさまることを体感してもらいます。
現実が自分が考えていたほどには危険でないことを身をもって体験すれば、極度の不安は和らいでいきます。
加えて、エクスポージャ以外の技法としては、あいさつ、表情、視線、話し方・聞き方、自己主張方など、実際の社交的な場面での人との接し方を訓練するSST(社会技能訓練)や、リラクゼーション、呼吸法、注意の向け方・そらし方を練習する不安対処訓練があります。
>いちばん危険なのは「自分の頭の中」
一方、精神療法は心理療法、カウンセリングとも呼ばれ、患者さんと医師などの治療者の話し合いによって問題を解決していく方法です。
ここでは、精神療法の一つで、社会不安障害への効果が認められている認知療法を紹介します。
認知療法は、認知行動療法ともいわれます。
認知、つまりものの考え方や受け取り方を変えて問題に柔軟に対処することで、うつや不安などの症状を軽くする治療法です。
もともとはうつ病の治療に効果があることで注目された方法ですが、その後、社会不安障害などの不安障害やストレス関連障害など多くの精神疾患にも効果があることがわかってきました。
ものの考え方や受け取り方を変えると、なぜラクになるのでしょうか。
それは精神疾患に苦しんでいる人が、現実を実際以上に重くとらえすぎて苦しんでいることが多いためです。
強い不安を感じている人の多くは、周囲にいる人たちが自分のことを低く評価しているのではないか、批判的にみているのではないか、と心配しています。
しかしそのような場合、自分だけの思い込みで現実を判断していることが多く、必ずしも客観的な評価ではありません。
少し冷静になって周囲を見渡してみると、他の人は思っているほど批判的ではないし、意外と自分がうまく対応できていることがほとんどです。
社会不安障害の認知行動療法で有名なイギリスの心理臨床家であるデイビッド・クラークは、「社会不安障害の患者さんにとって大事なことは、いちばん危険なところは自分の頭の中だと気づくことだ」といっています。
また彼は、自分を一番批判しているのは周りの人ではなく自分自身であり、社会不安障害の人はそのことに苦しんでいるのだとも言っています。
つまり、社会不安障害の患者さんには、恐怖や危険を自分の頭の中でつくりあげている面があり、治療のためには、そこに気付くことが大切だと言えます。
このような自分の考え方を修正するアプローチを「認知修正法」と呼びます。
また、現実に目を向けられるようになるには、実際の現実に入っていくことが必要です。
自分で危険だと思っている現実に足を踏み入れるアプローチを「エクスポージャ(暴露)」と呼び、これが社会不安障害に対する認知行動療法の重要な技法になっています。
エクスポージャのポイントは、不安な場面をつい回避してしまうという行動を抑えることにあります。
そのために、不安を引き起こす場面えお想像したり、あるいは実際にそのような場面に身を置いたりして、ある程度の時間が経てば不安症状が次第におさまることを体感してもらいます。
現実が自分が考えていたほどには危険でないことを身をもって体験すれば、極度の不安は和らいでいきます。
加えて、エクスポージャ以外の技法としては、あいさつ、表情、視線、話し方・聞き方、自己主張方など、実際の社交的な場面での人との接し方を訓練するSST(社会技能訓練)や、リラクゼーション、呼吸法、注意の向け方・そらし方を練習する不安対処訓練があります。
参考文献:不安症を治す 大野裕著