社会不安障害の人はシミュレーションをしてみよう

社会不安障害の人が周囲に関心を向ける練習

エクスポージャという方法は、強い不安を感じる場面にあえて直面するのですから、そんなに簡単なものではありません。

そこで社会不安障害の人が実際に不安な場面に向き合う前に、家族や親しい人、治療スタッフなどに協力してもらい、実際の行動のシミュレーションをしてみるといいでしょう。
これを「ロールプレイ」といいます。

練習には2つの方法があります。
その一つは、自分に注目した後に、周囲に関心を向ける、ということを繰り返す方法です。
人前で話すのが苦手な社会不安障害の人の場合、まず、最近世の中で話題になっていることなど、話す内容を決めます。
そして、呼吸数や脈拍を数えるなどして、自分に注意を向けます。
次に、自分に意識を向けるのをやめて、相手の人に向かって話を始めます。
話しをしているときには話に集中するようにします。
あわせて、話している相手がどのような態度をとっているかを観察します。
その時には、相手の目の動きや姿勢、体の動きなど「客観的」に観察できる事柄に目を向けるようにしてください。
一方、相手が何を考えているかとか、どのように感じているかなど、自分の「推測」が入るようなことには、なるべく意識を向けないようにします。

3~5分間そうやって話を続けたら、再び自分に注意を向けて、呼吸数や心拍数を数え、それからまた、話と相手の観察を再開します。

このような繰り返しによって、社会不安障害の人は自分だけに向いてしまいがちな関心を、周囲にも向けていく練習をすることができます。

社会不安障害の人は自分が気にしているほどは目立たない

2つめの方法は、不安から自分を守ろうとして社会不安障害の人がついやってしまいがちな、「安全確保行動」を変える練習です。

まず社会不安障害の人は、自分がどのような安全確保行動をよくやっているかを確認します。
人前で話す時であれば、早口になる、小声になる、下を向いて話す、などといったパターンがよくみられます。

そして、自分の状態に注意を向け、意識的にそのような安全確保行動をとりながら、たとえばわざと下を向いたままで、話をしてみます。
次に、そういった安全確保行動をやらないようにしながら、代わりに周囲に関心を向けて観察するようにしてみます。

社会不安障害の人はそのようにした後で、どちらのときにより不安になるか、自己採点をしてみます。
実際にやってみると、ほとんど変わらないか、むしろ安全確保行動をしない場合のほうが不安が軽くなっていることが分かります。

社会不安障害の人はできれば、こうした練習の場面を録画や録音しておくようにすると、自分の行動を客観的に振り返ることができます。

その際には、自分が周りからはどのように見えているかや、他の人がどのように反応するかを、あらかじめ予測しておき、それと実際に記録した画像や音声と比較してみると、自分の思いこみがどの程度「正しい」ものだったか、「思い過ごし」だったのか、確かめることができます。
社会不安障害の人はここでも事実を観察することが大切です。
自分の行動や相手の反応について、声の震えや赤面、顔や体の緊張、手の震えなど、客観的にはっきりするポイントだけを観察するようにしましょう。

また、社会不安障害の人は早口になる、下を向いて話すなど、自分として「気になる」安全確保行動を、わざと少し協調しながらロールプレイをしてみて、それが実際にどれくらい気になるかを、録画や録音によって客観的に確かめるのもいい方法です。
自分ではとても目立つような気がしていても、実際に録画や録音で見直してみると、意外にそれほどには気にならないものです。

参考文献:不安症を治す 大野裕著