日本での社会不安障害の調査結果
それでは対人恐怖症の本家ともいえる日本に社会不安障害に悩む人がどのくらい隠れているのでしょうか。
日本でもケスラー教授らと共同研究をしている川上憲人東京大学教授らのグループが同じ方法を用いた調査結果をすでに報告しています。
実はそこで報告されている一般の地域住民の中における社会不安障害が疑われる人の数は、残念ながらというかやはりというか、かなり低いものでした。
ただしこの調査が行われたのは鹿児島や長崎など九州と四国、中国地方の一部の地域住民約1600人(成人)を対象にしたものでした。
地域がかなり農村部に偏っているため、この調査結果を大都市部や日本全体に当てはめるのはもちろん無理がありますが、多くの専門医にとってはむしろ納得できる数字でした。
その後、2006年には世界精神保健共同調査グループによる世界17カ国18地域(中国での調査が北京と上海の二地域で行われたため、そうなっています)の調査結果のまとめが前述の川上教授の研究グループによって発表されています。
「これはこころの健康に関する地域疫学調査の国際比較に関する研究」という報告書で、日本を含めた世界17カ国におけるうつ病や各種不安障害、依存症などの心の病気に罹っている人が地域にどのくらいいるのか、またその人たちがどの程度治療や専門的援助を受けているのかを調べたものです。
この調査では社会不安障害についても結果が公表されていますので紹介したいと思います。
様々なタイプの不安やうつで受診する方が急増しているわが国ですが、地域でごく普通に生活している20歳以上の人の中からランダムに選んで専門の調査員が面接調査した結果は意外なものでした。
すなわち過去一年に治療や診断を受けているか否かは問わずに、何らかのうつ病や躁うつ病、不安障害、依存症に調査前の一年間に罹っていたと思われる人の率は、欧米の先進諸国に比べるとかなり低く、急激な経済発展の途上にある中国や、発展途上国であるアフリカのナイジャリア、欧州の中でなぜかこうした心の病気の有病率が低いドイツやイタリアなどと同程度だったのです。
もちろんこれは専門の医師が直接診察して診断をしたわけではありませんので、医学的な治療が必要のないごく軽い症状の人もかなり含まれています。
ですからこの調査でも積極的な治療が必要な重症の方の率だけ比べると、国による差はかなり小さく、日本を含め多くの国で1~3%の範囲でした。
この報告書には日本とアメリカ、ヨーロッパ、中国、メキシコの調査結果が一覧表にされています。
社会恐怖、すなわち社会不安障害の12カ月有病率(この1年間に社会不安障害に罹っていたと思われる人の率)はアメリカでは6.8%、ヨーロッパでは7.7%と驚くべきほど高い数字が示されています。
これに対して発展途上国のメキシコでは1.7%、日本では0.7%に過ぎませんでした。
驚いたことに中国の調査結果はさらに低くたったの0.2%でした。
社会不安障害も含めて不安障害では、うつ病などと比べてどの国においても医療機関を受診するひとの率が非常に低いことが特徴でした。
確かに不安障害に関してはこうした不安症状で医療機関、特に専門医を受診するのはなかなか敷居が高く難しいことと思います。
実際日本でも不安障害の方の受診率は11%に過ぎませんでした。
※参考文献:社会不安障害 田島治著