社会不安障害の人のための上手な自己主張の方法
社会不安障害「タテの人間関係」の力関係
「ヨコの人間関係」に対して「タテの人間関係」というのは、立場の上下など、双方の力の差に注目した見方です。
人間関係を「タテの人間関係」から見ると、一方の反応が、相手の逆の反応を引き起こしやすいことがわかっています。
つまり、一方が強い態度に出ると、相手はつい弱い態度をとってしまいがちです。
たとえば、上司が「なんでこんな仕事のやり方をするんだ」と部下を強く叱責すると、部下は「すみません、すみません」と委縮してしまいます。
そうすると、上司はさらに高飛車に責め、部下はどんどん居場所がないような気分に追い込まれてしまいます。
こうした関係は、上司と部下など立場の上下がある場合に現れやすいのですが、仲間同士の場合でも同じようなことは起こります。
ですから、社会不安障害の人は、自分の態度が弱くなりすぎていると感じた時には、一方的に言われっぱなしにせずに、ちょっとでも、短い言葉でいいので自分の気持ちや考えを、相手に伝える工夫をしてみると、状況が少し変わることがあります。
社会不安障害の人は「強い言い方」「弱い言い方」から考える
社会不安障害の人が自分の気持ちや考えを相手に伝えようとする時には、まず、伝えようとする「内容」については、あまり難しく考えずに、なるべく素直に自分がいま思ったり感じたりしていることを伝えるようにしてください。
そのほうが、人と人とのふれあいという感覚が生まれ、より好ましいコミュニケーションにつながりやすくなります。
そのうえで社会不安障害の人は今度は、そんな「言い方」、どういった「表現」で伝えたらいいかを工夫してみます。
伝えたい「内容」と、「表現」の仕方を、いったん切り離し、「表現」で伝えたらいいかを工夫してみます。
伝えたい「内容」と、「表現」の仕方を、いったん切り離し、「表現」の方の工夫を考えてみるということです。
私たちは人に話をする時、内容のほうに気をうばわれがちですが、伝わり方は表現の仕方によってずいぶん違ってくるものです。
どうということのない内容でも、言い方しだいできつい感じになることがありますし、厳しい内容でも、言い方の工夫でそれなりに穏やかに伝えられることがあります。
ただ、実際の仕事や暮らしのなかで、社会不安障害の人は白紙の状態から適度な表現を考えるのは案外難しいものです。
そうした時には、まず、強い言い方、弱い言い方という両極端を考えて、それから中ほどを探していくと、ほどほどにバランスのよい表現が見つかることがあります。
つまり、社会不安障害の人が自分の気持ちや考えを伝えようと思ったときに、まず、相手のことを考えずに自分の主張を通す「強い言い方」と、自分のことはおいて相手の都合を優先する「弱い言い方」を、自分なりに考えてみます。
そうしてから、次に、それらの「中ほど」の言い方を考えてみるのです。
上司に「なんでこんな仕事のやり方をするんだ」と言われた時に、「私には私の考えがありますし、ちゃんとやっています」というのは、自分は間違っていないと主張する強い言い方です。
本当は言いたいことがあるのに、「申し訳ありません。これからは気を付けます」と引き下がるのは、自分を抑え込んだ弱い言い方でしょう。そこまで考えておいてから、ではその中間にどのような言い方があるだろうかと考えてみるのです。
たとえば「できるだけ直したいと思いますので、具体的に教えてください」と、まず上司の言い分を聞いて、そのあとに自分なりの考えを言ってみます。
あるいは、「私としても最近、困っていることがあるのですが」と、仕事上の現在の問題点を事実で示してみるのも一つのやり方でしょう。
一緒に解決方法を相談するような流れになれば、それほど対立するようなことではなかったと、お互いに気付くこともあります。
社会不安障害の人で直接自分で言うのが難しい場合には、他の人に間に入ってもらうという方法もあります。
社会不安障害の人は「タテの人間関係」では、言われっぱなしで自分を出さずにいると、ますます不安な気持ちが強まってしまいます。
社会不安障害の人は率直に、ただし表現を工夫しながら、自分の気持ちや考えを伝えるようにすれば、そこから少しずつでも人間関係が新たにうごきはじめることがあります。
参考文献:不安症を治す 大野裕著