社交不安の評価方法――リーボビッツの社交不安評価尺度

社会不安障害を客観的に捉えようとすると数値化できるスケールが必要になります。
これには医師が問診して行う客観的なスケールと、本人が自己評価してつけるスケールの二つに大別されます。
主な評価の尺度としては、医師が社交不安の症状の強さを評価する症状評価のスケールと、本人がそれによって生じる日常生活への影響を見る日常生活機能評価のスケールと、そして医師が全体として症状の重症度や治療による改善度を大まかな印象でつけるスケールの三つの種類があり、薬や心理的な治療による効果を見るときに用いられています。

人前であがるということは誰でもあることですが、社会不安障害という病気について症状の強さや治療による効果を客観的に見るためには、一定の質問によって評価するスケールが必要になってきます。
社交不安や社会不安障害の評価に用いられているスケールには何種類かありますが、それぞれ一長一短があります。
一番よく用いられていて有名なのが社会不安障害の研究をリードしたコロンビア大学のリーボビッツ教授が開発したスケールです。
これは頭文字をとってLSASと略されるものでリーボビッツ教授が開発したスケールです。
これを北海道大学の朝倉聡氏らが翻訳した日本語版がよくもちいられています。

これは様々な場面での人との関わりや人前で何かをする状況での恐怖感や不安感と回避の程度を医師が質問してつけるものです。
質問には人前で電話をかけるとか、少人数のグループ活動に参加する、公共の場所で食事をするなどの人前でのパフォーマンスに関する質問と、権威ある人と話をするとかパーティーに行くなどの人との関わりに関する24項目から構成されています。

社交不安の強さは「全く感じない」から、「少しは感じる」、「はっきりと感じる」、「非常に強く感じる」の4段階で評価し、そうした状況を避けようとする回避行動については「まったく回避しない」から、「確率三分の一以下で回避する」、「確率二分の一程度で回避する」、「確率三分の二以上、または100%回避する」の四段階で評価します。
質問はこの一週間にもしそういう状況があったとしたらということで答えてもらいます。
ですから得点の範囲は0点から最高144点の範囲ということになります。

これは客観的な評価として医師が聞いてつけることになっていますが、十分な説明の後に本人が自分で記入しても結果があまり違いはありません。
このことはこのスケールを開発したリーボビッツ教授自身が比較検討した研究を行い、自分でつけてもらってもあまり変わらないという結果を報告しています。
多くの大学生に自分でつけてもらいましたが、得点の範囲は非常にばらつきがあります。
10点以下の学生もいる反面、70点以上の高得点を示す学生も少なからずみられました。
リーボビッツ教授によれば30点以上は社会不安障害の存在が示唆され、60点以上は全般性社会不安障害が示唆されると述べています。

しかし、先ほどの大学生の結果などを見ると30点以上の学生はかなり多く、やはり60点以上は多少とも日常生活に支障をきたす可能性がある病的な社交不安と考えたほうがよいように思います。
著者の医師自身が治療している方を見ても自ら受診する方の多くは80点から95点で、100点以上の高い点の方もまれではありません。
ただし、人前で字が書けないなど症状や場面が限局している社会不安障害の方では本人の苦痛や支障が強くても得点があまり高くなりません。
社会不安障害の方を治療した場合に60点以上の高い点を示す全般性のタイプでは、治療により症状が改善すると60点から30点の間に下がってきます。
非常に良くなったと喜ぶ方やほぼ症状がとれた方の場合には30点以下になり、本人もびっくりすることがあります。

このようにリーボビッツ教授が作ったスケールは自分で評価するスケールとしても使えますが、その場合には使い方についての説明を十分理解する必要があります。
スケールには恐怖や回避がどういう意味か説明してあります。
また過去一週間にそうした状況がなかった場合はもしあったと仮定して付けます。
ですからコンピューターを使って回答することも可能で、そうした試みもなされています。
質問項目をよく見るとこのスケールは医師が行った場合も目の前の患者さんの様子を観察してつけるわけではなく、本人の事故報告でつけるわけですから、自分でつけても変わらない結果になるわけです。

LSASと呼ばれるリーボビッツ教授が開発した社交不安の評価尺度は1987年に出されていますが、使い方が簡単で広く用いられています。
利点としては人前での行為や社交そのものに対する不安の強さが得点として出ること、恐怖感と回避行動に関してもそれぞれの得点がでるので社会不安障害の患者の状況が把握しやすくなります。

欠点としては24項目の中に社交不安の状況で起こる発汗や動悸、震えやこわばり、赤面などの身体の症状の評価がまったく含まれていない点です。
研究者によってはこれが欠点だとする意見もあります。
この尺度はアメリカで作られたものであり、いくら生活が欧米化したといっても文化的な背景が異なる日本人にそのまま使えるのか疑問もありましたが、日本でもそのまま使えることが先ほど紹介した朝倉氏らにより示されています。
多数の学生や患者に実施した著者の医師の調査でも特に問題はないようです。

LSASの24項目のうち、以下の十項目の点が高い、すなわち不安恐怖や回避が強い場合には社会不安障害でも日常生活への悪影響が強い全般性のタイプである可能性が高くなります。
その項目には「権威ある人と話をする」、「パーティーに行く」、「あまりよく知らない人達と話し合う」、「他の人達が着席して待っている部屋に入って行く」、「人々の注目を浴びる」、「あまりよく知らない人に不賛成であるという」、「あまりよく知らない人と目をあわせる」、「誰かを誘おうとする」、「パーティーを主催する」、「強引なセールスマンの誘いに抵抗する」の十の場面が含まれていますが、全般性社会不安障害の方ではこうした様々な場面での恐怖や回避が強いのが特徴です。

※参考文献:社会不安障害 田島治著