社会不安障害の人は「不安」を感じるから成長できる
社会不安障害の人は不安を自分の味方にする
著者の医師が感銘を受けたある教師の話を紹介します。
その人は、若い頃から吃音があり悩んでいました。
友達と話していても思うようにすらすらと言葉が出てきません。
そうするとあせってしまって、ますますうまく話せなくなります。
まるで自分がダメな人間のように思えてきます。
そのような人が、どうして人の前で話をする教師という職業を選んだのか、不思議に思う人がいるかもしれません。
その人の話では、どもりながらも自分の考えや気持ちを伝えようとしているうちに、言葉の大切さや美しさに気付いたからだそうです。
言葉の大切さを子ども達に伝えていきたい。
その思いが教師という道につながりました。
その人はおそらく、コミュニケーションを通して人と人とが支え合うことの大切さを体験的に理解していて、それも教師を選んだ理由になっていたのだろうと思います。
話をしていても、とてもあたたかさが感じられる人でした。
その人にとって、吃音が大きな力になっているのがわかりました。
社会不安障害の患者さんは人前で何かをするのが恐いという気持ちも、前向きの力に変えることができます。
このような社会不安障害の人は周りの人が自分を見る目がとても気になります。
そこで、どうしたら見ている人に喜んでもらえるか、好感をもってもらえるかと考えていけば、身だしなみ、髪型、表情の作り方、話したり聞いたりするときの調子の上げ下げなど、工夫できることがたくさんあります。
もともと人の視線に不安を感じない人は、そういった気配りが案外できないものです。
私たちにとって大切なことは、不安を完全になくすことでもなければ、何かを完璧にやり遂げることでもありません。
社会不安障害など不安な気持ちになっても、そこで自分が体験していることの意味を読み取り、そこから自分なりに対処したという経験を積み重ねていくこと。そうした体験を通じて得た実感が、私たちの自信になり、力になります。
社会不安障害など不安はたしかにつらいものです。
しかし、不安や何かを苦手に思う気持ちから逃げずに、少しずつでも向き合っていけば、それが自分を成長させるバネになります。
ほどほどに不安を感じられるようになると、不安な気持ちが、いろいろなことを教えてくれる自分の味方になってきます。
不安は、私たちにとってそんな大切な宝物でもあるのです。
参考文献:不安症を治す 大野裕著