動物の進化と社会不安障害

社会不安障害に悩む人はどうも他の人よりもすぐに恐怖反応の条件付けが起きやすく、学習した恐怖を消去しにくい傾向があると考えられます。
普通ですと多少英語の授業などで指されて失敗しても条件付けされることはなく、多少気になったとしてもすぐに忘れてしまうからです。
これにはセリグマンというフランスの学者が考えた反応準備性という考えが当てはまるかもしれません。

人間の進化を考えてみると、危険から身を守るということは生存の上で最も重要なことです。
人間は長い進化の歴史の中で危険で脅威を与えるような相手や条件に対する恐怖反応はすぐに学習してしまうようになったのかもしれません。
これがセリグマンのいう反応準備性です。

弱肉強食の動物の世界では勝者と敗者、支配する側と服従する側がはっきりと分かれます。
例えばオスのライオン同士がメスを取り合って威嚇し合い、戦います。
そうした意味で、威嚇や怒った表情というのは争いや攻撃のリスクを意味することになります。
脳における感情の調節のメカニズムを調べる心理的な実験では、様々な人の表情が用いられています。
中でも、怒った顔は今述べましたように、動物の進化の中では恐怖を呼び起こす刺激です。
ある研究では、人間が気が付いて意識できないくらい短時間見せるだけでも、怒った顔は恐怖の条件付け反応を起こすことが示されています。
サブリミナルという手法です。

人間の社会不安障害に見られる恐怖感や症状というのは、先ほどの例で言えば、戦いに負けたオスのライオンに見られる恐怖感や服従の行動と一致するものかもしれません。
顔が赤くなったり、不安や恐怖の表情や身体の症状が出ることで服従が相手に伝わり、さらに攻撃されるのを防ぐ役割がありますが、社会不安障害の場合には実際二はそれほど観察されたり批判されたりするわけではないのに、反応が出てしまうある種の誤った恐怖反応と言えるかもしれません。

※参考文献:社会不安障害 田島治著