社会不安障害に対するSSRIの効果について
日本で行われたフルボキサミンの社会不安障害に対する効果を見る臨床試験では、1日150mgと300mgの二つの量の治療効果が比較検討されました。
予想に反して1日150mgとその倍である300mgとでは、治療効果に違いはありませんでした。
フルボキサミンは現在、一錠25mgの錠剤と50mgの錠剤があります。
うつ病の治療をする場合には、1日100mgから150mgが用いられます。
治療が難しい強迫性障害の場合には1日300mgくらいまで用いられます。
一般的には、フルボキサミンを用いて社会不安障害の治療をする場合には、うつ病を治療するときとほぼ同じくらいの薬の量が必要であると考えられています。
もちろん、中にはもっと少ない量で効果が見られる方もありますし、副作用で十分な量が飲めない方もあります。
通常は1日25mgを朝夕2回から開始して数日で食後3回に増やし、睡眠や食欲不振などの副作用が我慢できる程度であれば、さらに1日100mg、数日後に1日150mgまで増やして、少なくとも3か月は経過を見ます。
薬の副作用や効果の出方にはかなり個人差があり、1日50mg飲んだだけでもイライラ感が強くなって、いてもたってもいられない方がある一方で、1日200mg服用しても眠気や食欲の低下がなく、気分にも変化が認められず、まったく変わらないという方もあります。
これは、同じ量を飲んでも肝臓の薬を分解する酵素の働きに個人差があることと、薬が作用する部位の感受性に個人差がかなりあるためです。
ですから、同じ一粒を飲んでも、血液中の薬の濃度にはかなりの違いが認められます。
社会不安障害の治療に訪れる方の多くが、薬が効くということだけに注目して、服用すれば誰でもすぐに効果が現れると錯覚しています。
実際には、一つのSSRIで社会不安障害の治療効果が見られる方は、せいぜい6,7割です。
中には、服用後1週間もしないうちに気分が楽になったという方もありますが、通常は微妙な効果が現れるのにも1か月かかり、それなりの効果がみとめられるのには3か月かかります。
ですから、徐々に薬の量を増やし、飲めるようであれば3か月間は我慢するように伝えています。
もちろん、3か月後に急に効果が現れるのではなく、効果が認められる方では緊張度の少ない場面から徐々に微妙なプラスの変化が現れてきます。
SSRIを服用して、2,3か月で多少とも改善の傾向が認められた方では、さらに3か月から半年服用すると、効果を本人も実感できるようになります。
社会不安障害で結婚式や大きな会議などがあって、どうしても避けることができない場面がある方に対しては、SSRIの効果が自覚できるまでのつなぎとして、服用後2,30分ですぐに効果の出る抗不安薬とベータ遮断薬を用いると効果的です。
そうした場面での30分くらい前に服用すると、ほとんどの方が症状が出ず、不思議なくらい気持ちがリラックスして助かったと言います。
欠点は、SSRIの効果が出て本来はこうした薬の服用が必要なくなっているにもかかわらず、効果がすぐにわかるため、不安からついつい頼ってしまう点です。
高血圧や頻脈の治療に用いられるベータ遮断薬にはたくさんの種類がありますが、日本ではカルテオロール(商品名ミケラン)という薬が心臓神経症に対する保険適用もあり、よく用いられます。カルテオロールと抗不安薬の2種類を30分くらい前に服用すると、長年不安と恐怖を抱いていた場面でも不思議なくらい落ち着くため、多くの方がその効果にびっくりします。
しかしながら、こうした薬は車のブレーキの例えで示しましたように、一時しのぎのフットブレーキの役割しか果たしませんので、エンジンブレーキとして作用するSSRIによる治療が重要となります。
※参考文献:社会不安障害 田島治著