言葉の力で精神の問題を解決する治療法

みなさんは、認知行動療法という言葉を聞いたことがありますか?

認知行動療法は、精神疾患に対する精神療法・心理療法(サイコセラピー)のひとるで、認知の偏りや行動の偏りをバランス良く治し、症状をかいぜんしていくという治療法です。

認知というのは「ものの見方」のことです。

この認知がネガティブにばかり偏っていると、社会不安障害やうつ病など、心の病気につながることがあります。

たとえばコップに水が半分入っているのを見た時、同じ人でも楽しい気持ちの時は「まだ、コップにたくさん水が残っている」と捉え、悲しい気持ちの時には「もうコップに少ししか水が残っていない」と捉えることがあります。

同じものを見ても、そのときの感情によって、人の捉え方(認知)はさまざまです。

これが、コップに半分の水を見て、いつも「もう、コップに少ししか水が残っていない」と捉える人は、「認知が偏っている」のです。

いつもネガティブに捉えていると、気持ちも悲しくなってきてしまいます。

認知行動療法は、社会不安障害やうつ病のような心の病気につながっているネガティブな認知の偏りを、よりバランスの良いものにしていく治療法です。

認知行動療法の効果

認知行動療法というと、薬物も手術も用いず、言葉だけで治療を行なうので「ほんとうに効果があるのか」と疑問に思う人もいるかもしれませんが、臨床試験という方法で、認知行動療法は薬物療法と同等あるいはそれ以上の高い効果が示されています。

また、認知行動療法が、薬物療法とは別の形で、脳の働きにも、強い影響を与えていることが、最新の研究で明らかになってきています。

認知行動療法は、すでに、うつ病に対しては健康保険の適用が認められています。

今後、社会不安障害などの不安障害への適用拡大も期待されています。

認知行動療法はほかの治療法と併用できる

認知行動療法は、薬物療法で効果がなかった人が、薬物療法を継続しながら、さらに上乗せする形で行うことができます。

また、病気の域にまで重くなっていない予備群のような状態の人でも、心の病気の予防として、認知行動療法を行っても、特にデメリットは知られていません。

自分の認知や行動の偏りに気付くことができ、心の健康を増進することに役立てることができるのです。

効果が高く、再発率が低い

認知行動療法は、薬を口に入れて飲むだけという薬物療法に比べると、手間や時間がかかります。

しかし、認知行動療法自体が、ネガティブなものの見方や行動の偏りをバランス良くしていく訓練となっているので、一度この治療法を受けた人は、再び症状が悪くなるような精神的なストレスに出会っても、問題を客観的に見ることができるなど、ストレス対処能力が高くなり、心の病気の再発防止に役立つことが知られています。

認知行動療法で心の問題を解決できた人は、その後また別の問題に出会っても、より上手に対処して乗り越えられるようになるのです。

認知行動療法はスキルの定着が大切

考え方を変えるのは、簡単といえば簡単ですが、変えることができた考えのバランスを維持するのは、難しいといえば難しいです。

治療中に認知をバランスよく変えることができたとしても、日常生活の中でなにかのできごとがきっかけとなったり、たまたま過去の記憶を思い出したりしたことがきっかけとなったり、たまたま過去の記憶を思い出したりしたことがきっかけで、認知の仕方が元に戻ってしまい、不安が再燃するケースもあります。

落ち着いて考えてみれば、前向きでバランスの良い認知をすることができたとしても、不安で感情がたかぶったり、緊張で動揺しているときは、バランスの良い認知をできないこともあります。

また、長い時間をかけて作られてきた、無意識の人の心の深層にある信念は、自覚しやすい浅いところにある考えよりも、変えづらいとされています。

だから表面的には認知が元に戻ってしまうということもあるのです。

もとの偏った認知に戻らないようにするためには、ある程度の時間をかけて、認知の定着をはかる必要があります。

半年間から1年間、認知のバランスが保てるようになっていれば、定着したといえるでしょう。

最初は、1週間とか、1ヵ月とか3カ月を目標にして、定期的に見直すようにしていけばいいでしょう。

このようにして書くと難しく感じるかもしれませんが、「案ずるよりも産むがやすし」というように、まずは、試してみることが重要です。

少しずつ考え方を整理していけば決して難しくはありません。

※参考文献:自分で治す「社交不安症」 清水栄司著