<社会不安障害>とは、ある特定の状況において激しい怖れを感じる病である。
だが実は、この<社会不安障害>は、大きくふたつのタイプに分けることができる。
まず一つ目は<単一性の社会不安障害>。
これは、ある特定の状況においてのみ強い不安を感じる<社会不安障害>で、もっとも頻繁に見られるのが「人前で話をする」のを怖れるパターンである。
もちろん、その不安の強さ、回避行動の度合いは<あがり症>をはるかに上回る。
たとえば、<単一性の社会不安障害>の人は、部長に昇進することで会議で発言させられるとしたら、何の躊躇もなく昇進を断ってしまうだろう。
また、式場で挨拶をさせられるとわかったら、たとえ無二の親友から頭を下げられても、決して仲人など引き受けないにちがいない。
そしてもうひとつが、<全般性の社会不安障害>。
ほとんどすべての対人関係に強い不安を感じるのがこのタイプである。
このタイプは、<回避行動>や<逃避行動>を行う頻度の高さから考えても、日常生活に及ぼす影響はいっそう大きくなる。
しかし実際は、ある人の<社会不安障害>が<単一性>か<全般性>かを見分けるのはそれほど簡単なことではない。
なぜなら、その判断は本人の証言ひとつにかかっているからだ。
一例を挙げよう。
ある<社会不安障害>の女性は、他の人達と一緒に食事をするのに不安を感じる、と医師に訴えていた。
当初、本人の話を聞く限りでは、その症状は<単一性の社会不安障害>に当てはまると思われた。
ところがその後、よくよく話を聞いてみると、どうやら別の状況でも不安を感じているらしいことがわかってきた。
つまり、彼女は実際には<全般性の社会不安障害>だったのである・・・。
いや、彼女が嘘をついていたわけではない。
実はその女性は、それらの状況にぶつからないよう、無意識のうちに<回避行動>をとっていたので、実際には不安を感じた記憶がなかったのである。
さらに、恐怖症が極度に激しくなったものを、心理学用語で<汎恐怖(パノフォビア)>と呼んでいる。
つまり、とにかくありとあらゆるものに怖れを感じてしまうのだ。<汎恐怖性の社会不安障害>の場合、すべての人間関係が激しい恐怖を引き起こすため、ふつうの生活を送ることがいよいよ困難になってしまう。
想像を絶することではあるが<汎恐怖性の社会不安障害>のために、他人と会ったり話したりする状況をいっさい遠ざけて生活している人も実際に存在しているのだ。
あるクリニックにも、世間とのいっさいの関わりを拒み、自分の子ども達に人生のすべてを捧げて生きてきた、ある五十代の女性がやって来たことがある。
実は、彼女が医師に診てもらう決心をした理由はほかでもない、子ども達がみんな独り立ちしてしまったために、急に深い孤独感に陥ったせいだったのだ・・・。
※参考文献:他人がこわい あがり症・内気・社会恐怖の心理学
クリストフ・アンドレ&パトリック・レジュロン著 高野優監訳