ある状況に置かれた時に、私達が不安を感じるか、あるいは心地良さや楽しさを感じるかは、<社会不安障害><社会不安>を診断する上で非常に重要視されている。
にもかかわらず、こうした<ものの見方>は、実は、私達の<絶対的信念>の氷山の一角にすぎないのである。
<社会不安障害><社会不安>を感じる人は、心の奥に<絶対的信念>を隠し持っている。
たとえば、他人に頼み事をするのが苦手な人は、「他人に嫌われないためには、迷惑をかけてはならない」という<絶対的信念>を胸に秘めていると考えられる。
あるいは、他人から低く評価されることを怖れる人は、「みんなから尊敬されなくてはならない」と、失敗することに不安を感じる人は、「他人から信用してもらうには、一度始めたことは最後までやり遂げなければならない」という<絶対的信念>を、それぞれ心の中に抱いていると思われる。
<絶対的信念>は、彼らが自分自身に課した個人的な決まり事であって、たいていは「~しなければならない」、「~すべきである」という命令調で自らの行動を律している。
こうした<絶対的信念>は、心理学的には<スキーマ(認知図式)>と呼ばれている。
<スキーマ>とは、わかりやすく言うと、その人の<ものの見方>や<考え方>を方向づいている枠組みのことで、過去の経験、生まれ育った環境、これまで受けてきた教育などに影響されて、私達の心のなかに無意識のうちに形成されていくものだ。
そしてこの<スキーマ>は、いったん形作られてしまうと、なかなか揺るがない堅固なものになってしまう。
心理療法をもってしても、これをくつがえすのは相当に難しいといわれるほどに・・・。
さらに<スキーマ>は、ふだんはそっと影を潜めていて、ある一定の状況に置かれた時にだけその力を発揮する。
たとえば、「私はみんなから尊敬されなくてはならない」という<スキーマ>は、誰かから批判を受けた時にだけ、急に活発にはたらきだすのである。
では、自分の<スキーマ>とは逆の現実を目の当たりにした時、<社会不安障害><社会不安>を感じる人達はどうするのだろう?
その時を境に、自らの信念を捨てるのだろうか?
実は多くの場合、それでもなお彼らは自らの信念を曲げようとしない。
心理学者のジャン・ピアジェの研究でも明らかになったように、彼らは自らの<スキーマ>と相いれない現実を、その<スキーマ>に同化させようとするのである。
例を挙げよう。
<うつ>と<社会不安障害>を併発していたある女性は、「自分のようなつまらない人間になんか、誰も関心を示すはずがない」と信じ込んでいた。
ところが、仕事がらみのパーティにしぶしぶ参加した時のこと、知り合いの女性が近づいてきて、満面の笑みを浮かべて彼女に話しかけた。
しかし、その時に彼女が思ったのは、「この人は私に好意を抱いてくれているんだわ」ではなく、「孤立しそうな私を憐れに思って話しかけてくれたんだわ」だったのである・・・。
結局、彼女は、この出来事によって自らの<スキーマ>をくつがえしはしなかった。
いっぽう、これとは逆に、自らの<スキーマ>を現実に従って修正しようとする人もいる。
先の事例の女性なら、「あら、私にも人に好かれる魅力があるんだわ」と思うようになることがそれに当たるだろう。
だが、<社会不安障害><社会不安>を強く感じる人の場合、残念ながらなかなか自力で<スキーマ>を修正できないのが現状だ。
だからこそ、心理療法では、相談者が<スキーマ>を修正できるようサポートするプロセスが重要になってくる。
彼らの心の奥底に潜む<スキーマ>を見つけ出し、それを改善すること、それこそがまさに<社会不安障害><社会不安>から回復する唯一の手段なのだ。
しかし<社会不安障害><社会不安>を強く感じる人は、こと自分のことに関しては、非常に独断的で不公平な見方しかしようとしない。
過去の経験についても、ネガティブな出来事だけを極端にクローズアップして覚えていて、ポジティブなことはすっかり忘れてしまう。
それゆえに<社会不安障害><社会不安>の克服については、本人が自力で行うよりも、心理療法など外部からの助けが有効とされる場合が少なくないのである。
※参考文献:他人がこわい あがり症・内気・社会恐怖の心理学
クリストフ・アンドレ&パトリック・レジュロン著 高野優監訳