なぜ<社会不安障害><社会不安>に抗うつ剤なのか?
自分は<うつ>ではないのに・・・。
読者のみなさんのなかには、そう不思議に思う人もいるだろう。
しかし、多くの研究によって<社会不安>、とりわけ<全般性の社会不安障害>や<回避性人格障害>のような重度の<社会不安>に対する抗うつ剤の効果はすでに証明されている。
しかも、不安な感情、不自然な行動、ネガティブな考え方など、あらゆる症状においてポジティブな効果をもたらすというのだ。
しかし、すべての抗うつ剤に同じ効果が期待できるわけではない。
たとえば、従来の抗うつ剤、成分の化学構造の特徴から「三環系抗うつ薬」と呼ばれるタイプのものは、多くの研究結果から判断すると、<社会不安>に対してそれほど効果はないようである。
いっぽう、「モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO-I)」というタイプは、気分調整に関係する脳内の微量酵素に働きかける抗うつ剤であるが、とくに重度の<社会不安>の改善に適していると言われている。
しかし、最近開発されたばかりの最新型MAO-Iについては、<社会不安障害>の治療について残念ながら期待したほどの効果を認めることができなかった。
そして現在注目を集めているのが、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と呼ばれる新しいタイプの抗うつ剤である。
この薬の特徴は、従来の抗うつ剤のようにさまざまな神経伝達物質に作用するのではなく、心理的な障害にもっとも関わりが深いと言われるセロトニンだけに作用し、神経終末の部分でセロトニンの量を正常に近い状態にするところにある。
このように必要な受容体にピンポイントではたらきかけるため、効果が高く、副作用も少ないとされている。
<うつ>に限らず<パニック障害>や<強迫性障害>の不安を抑える効果もあり、数年前から正式に治療薬として処方されている。
最近では<社会不安障害>の治療に対する有効性も研究によって証明された。
とりわけSSRIの一種であるパロキセチンは、数多くの研究によって<社会不安障害>の治療への効果の高さが認められている。
米国、カナダ、そして西欧のほとんどの国々では、<社会不安障害>の治療薬として販売認可がすでに下りているという。
ところがフランスではいまだに認可が下りていない。
なぜなら、医薬品認可の専門家たちのなかに、この薬の濫用を不安に感じている向きが少なくないからだ。
つまり、「社会不安障害のような重度の社会不安だけでなく、軽度の社会不安にすぎない内気を治すためにも使われてしまうのではないか」という懸念を抱いているのである。
このまま行くと、おそらくフランスは将来的に、SSRIが認可されない欧州唯一の国となってしまうだろう・・・。
<社会不安障害>の人達の苦しみや障害の大きさを考えると、この状況はきわめて遺憾である。
実際の<社会不安障害>と<内気>は重度も症状もまったく異なるのに、「似たようなもの」として一般に認識されてしまっている弊害がこういうところに現れるのだ。
つまり、ジャーナリストを含む多くのフランス人たちは、「内気な性格を薬でなおす」ことに激しい拒否反応を示しているのである。
だが、この薬はどの国でも非常に慎重に取り扱われており、日常生活の大きな妨げになる<社会不安>に対してしか処方されていない。
この薬を認可したことで大きな問題は何一つ起きていないのだ。
現在進行中のさまざまな研究の結果が出れば、いつかフランスでも認可される日が来るだろうと信じたい。
その上、別のタイプの抗うつ剤の開発も現在進められており、そちらもおおいに期待されているということを付け加えておこう。
とは言うものの、抗うつ剤を日常的に使用することについては、厳重な注意が必要とされる。
なぜなら、抗うつ剤はいくつもの副作用を引き起こしうる、強力な薬剤であることは事実だからだ。
抗うつ剤の服用については、β遮断薬とは違って短期間で終了するのではなく、短くても半年から一年、あるいはそれ以上にわたって続けなくてはならない。
また、数ヵ月で効果が現れても、それで満足してやめたりせずにしばらく続ける必要があり、急にやめるとリバウンドが現われることがある。
このように、抗うつ剤の服用にはいろいろと困難が伴うため、心理面でのサポートなしで行うことは難しいだろう。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の使用法
1.SSRIは、医師の指示に従って服用すること(禁忌があるため)
2.SSRIは、<全般性の社会不安障害>のみに使用し、軽度の<社会不安>や<内気>には使用してはならない。
3.SSRIは、長期(最短で半年)にわたって、毎日服用すること。
4.SSRIの効果が現れるのは、服用開始後1~3週間であり、それ以上の即効性はない。
5.SSRIの服用者は、<社会不安障害><社会不安>が抑制されることで、自分の<不安>を距離を置いて眺めることができるようになる。
SSRIが服用者の考え方を直接変えるわけではない。
少なくとも服用開始後しばらくの間は、服用者は不安を感じ続けるが、その不安によって激しく動揺することはなくなるはずである。
6.こうしたことから、本人の努力次第で少しずつ、避けていた状況に再び向き合えるようになってくる。
7.SSRIには、気分を安定させる効果も期待できる(以前ほど気力の低下が感じられなくなる)。
※参考文献:他人がこわい あがり症・内気・社会恐怖の心理学
クリストフ・アンドレ&パトリック・レジュロン著 高野優監訳