この章では、認知行動療法を行う上での重要なポイントのひとつ、「逃げ出さない」ことについて述べていこう。

ここで取り上げるのは、<社会不安障害><社会不安>を感じる人の行動様式を改善するための訓練で、<行動療法>と呼ばれている方法である。

<社会不安障害><社会不安>を感じる人は、不安を感じる状況から逃げ出し、自分だけの小さな世界に閉じこもろうとしがちである。

そのおかげで不安を少しでもやわらげることができるので、無意識のうちにそういう行動様式を確立させてしまうのだ。

したがって、この傾向から抜け出すための第一段階として、不安を感じる状況から「逃げ出さないこと」が大切になってくる。

その証拠に、何の治療もセラピーも行っていないのに<社会不安障害><社会不安>が改善されたというケースがたまにあるが、それは不安を感じる状況に立ち向かっていった人であることが少なくないのだ・・・。

特に子どもの場合はこういう例が顕著である。

たとえば、親が子どもに対して他人と会ったり話をしたりする機会を作ってあげれば、<人見知り>や<内気>のような軽い<社会不安>はやがて消えていってしまうことがほとんどである。

しかし大人になると、いったん確立してしまった<行動様式>を変えるのはなかなか難しい。

それを可能にするには、<エクスポージャー法(暴露療法)>と呼ばれる、自分が不安を感じている状況にあえて身をさらす訓練が有効だとされている。

表2-1エクスポージャー法の手順

1.問題点をはっきりさせる 「どういう状況に置かれると、社会不安を感じるようになるか?」
2.不安を感じる状況をリストアップする 「これらの状況には、たとえばどういうものがあるか?」
3.リストアップした状況を、難易度順に並べ替える 「不安が一番小さいのはどの状況か?また、もっとも避けたい状況はどれか?」
4.エクスポージャーの準備をする 「これらの状況に立ち向かうために、何を受け入れなければならないか?」
5.エクスポージャーの計画を立てる 「どういう順序で、どういう時に行うか?」
6.エクスポージャーを実行する 「思い切ってやってみよう」
7.結果を評価する 「うまくいったのはどういう点か?改善すべき点は?」
8.継続する 「何度か成功することで、別の状況にも挑戦できるようになるだろう」

私達は、何かから逃げ続けている限り、それに対する怖れをなくすことは決してできない。

あえて不安を感じる対象に立ち向かっていくことで、その不安は必ず軽減されるはずなのだ。

エクスポージャー法の実践

では、エクスポージャー法のやり方について順を追って説明していこう。

ここでは、医師と相談者が協力しあって行っていく場合の手順を紹介するが、これを応用することで読者のみなさんがセルフセラピーとして実践していくこともできるだろう。

問題点をはっきりさせる

ある問題―とりわけ、長い間放置された複雑な問題は、ひとつのかたまりとして認識してしまうと、決して解決できないように思われてくるものだ。

たとえば、ひどく散らかった一軒の家を片づけなければならないとしよう。

もし私達が、その乱雑な家を、ひとつの大きな問題として、とにかくどうにかして片づけなくてはならない対象としてしか見られない限り、やる気を失ったり、いったいどうしたらよいのか途方に暮れたりしてしまうにちがいない。

ところが、まずはこっちの部屋から手をつけよう、あのあたりは次にしよう、などと、問題を分割してとらえられるようになれば、きっと能率よく動けるようになるはずである。

<社会不安障害><社会不安>についても、これとまったく同じことが言える。

相談者が初めて医師のところを訪れる時、いったい自分の問題をどのように説明したらよいか、途方に暮れてしまう人が多い。

「私、ひどく内気なんです」、「どうもそわそわと気持ちが落ち着かないんです」、「他人に一緒にいると気が張ってしまうんです」・・・。

そう、あまりにも漠然とし過ぎている。

もっと具体的に問題を把握して、力を注ぐ方向性を見つけておかないと、<社会不安障害><社会不安>を克服することはできない。

だからこそ、医師の最初の仕事は、その人が抱える「漠然とした問題」を丁寧に解きほぐし、どこにポイントがあるのかはっきりさせることなのだ。

つまり、「私は内気なんです」ではなく、いつ、どこで、誰と、何をしていると不安を感じるのか、問題点を明確にすることからすべてははじまるのである。

不安を感じる状況をリストアップする/難易度順に並べ替える

まず、自分がどのような状況で<社会不安障害><社会不安>を感じるか、感じる不安の強さの馴にリストアップしていく。

いつも必ず避けてしまうほど大きな不安を感じるのはどういう状況か、嫌々ながらもなんとか立ち向かえるのはどれか・・・。

この作業は、エクスポージャーの準備の前段階にあたり、エクスポージャーの順番を決めるのに重要な資料となる(エクスポージャーの実践は、不安の小さい順に行っていく)。

とくに気をつけておきたいのは、不安を感じる状況について細かいことまで正確に記録しておくことである。

たとえば、不安を感じてしまう相手の性別、身分、年齢、何人くらいを相手に話をする時か、事前に予想がつく状況か・・・。

これらのディテールはいずれも、本人の不安の大きさを左右する重要な要素であるからだ。

エクスポージャーの準備をする/実行する

いよいよ、エクスポージャーの実践である。

まず、本人がすべきこと、受け入れるべきことを事前にきちんと了解してもらうことが大切だ。

それから、どういう順序で、いつどこでエクスポージャーを行うかを決めていく(詳しい方法は、次に挙げる「アランのケース」を参照)。

この段階で、医師は相談者の考え方や行動様式をより深く理解することができ、場合によっては相談者の潜在能力を見出すこともある。

とくに、本人が長い間その状況から逃げていたり、過去に一度も立ち向かったことがなかったりする場合、この準備段階にはしっかり時間をかける必要があるだろう。

エクスポージャーの最大の目的は、自分は不安を感じる状況を克服できると、本人に自信をつけさせることである。

だから、同じような状況のエクスポージャーを、一度だけではなく何度も繰り返し行うことが大切だ。

少なくともこれまでの不安が半減するくらいまでは、続けて行っていく必要があるだろう。

その状況に対して非常に強い恐怖を感じている人の場合、医師自身がエクスポージャーに付き添うこともある。

ある女性医師の経験をお話ししよう。

彼女が、他人に何かを尋ねることに強い不安を感じていた相談者を担当していた時のことである(実はこれは、ちょっとした失敗談でもあるのだが・・・)。

クリニックの真向かいにたまたまホテルがあったため、エクスポージャーの一環として、相談者と一緒に宿泊料を尋ねに行くことにした。

だが、「こちらのホテルの宿泊料を教えて下さい」と相談者が尋ねた瞬間、彼女は、このエクスポージャーは相談者には難易度が高すぎたと悟らずにはいられなかった。

実は、そのホテルの客室の料金は、バス・トイレの有無、シャワーの有無、ベッド数、設備の充実度によってかなりの差があった。

相談者は、今にも泣きそうな表情で、汗をかきながら、希望する客室のタイプをフロント係にしどろもどろになりながら伝えなくてはならなかったのである・・・。

エクスポージャーを評価する/継続する

エクスポージャーを行った後は、その結果をできるだけ細かく評価することが大切だ。

この際、最初の目標は決して高くし過ぎず、段階的に上げていくことが重要になってくる。

たとえば、人前で話をすることがまったくできない人に対して、最初から「十分間、落ち着いて雄弁に話をすること」という目標を設定するのはどう考えても無理な話だろう。

相談者が自分のエクスポージャーを低く評価して、一気に自信を失ってしまうことにもなりかねない・・・。

こういう場合、最初は「他人の意見に対して賛成の意志を示す」とか「小さな声で構わないから質問をしてみる」くらいにしておくのが妥当である。

この時点で重要視されるのは、その内容はどうであれ、実際に人前で話ができたかどうかということだ。

こうした経験を重ねることで不安が少しずつやわらいでいくのであって、落ち着いて発言ができるようになるのはそれからのことである。

このうようにして、最初に定めておいたエクスポージャーのプログラムが一通り終了する頃には、それ以外の状況においても、相談者が自発的にエクスポージャーを実行できるようになってくるはずである。

実例―アランのケース

ここからは、医師がある相談者と実際にエクスポージャー法を行った時の様子を紹介しよう。

相談者の名前はアラン。

四十三歳で、高校教師をしている。

初めて会った時の状況

アランは<全般性の社会不安障害>だった。

彼の兄も軽度の<社会不安>を感じている。

両親はやや控えめな性格ではあるものの、アランの話では社交性がないわけではないという。

アランの不安は、大学入学を機に始まった。

高校時代はむしろのびのびと過ごし、友達もたくさんいた。

だが、大学一年の最初の学期末の口述試験で、二十人ほどの学生たちを前に話をしなければならなかった時、パニック発作を起こしてしまったのだ・・・。

それ以来、どうしても必要な場合を除いて、他人と接する機会を避けるようになってしまったのである。

大学卒業後は、家族のすすめから、そして彼自身の高校時代に対する郷愁もあって、アランは高校教師の道を選んだ。

幸運にも、受け持つクラスに素直でまじめな生徒が多かったためか、彼の<社会不安障害>が数学教師という仕事の大きな妨げになることはなかった。

しかしそのいっぽうで、同僚の教師たちをはじめ、家族や学生時代の友人たちを除く大人たちとの人間関係の中で大きな苦しみを感じていた。

そのうち、緊張を和らげるために、彼はアルコールや精神安定剤に頼るようになっていった。

しかし、彼には<うつ>の症状はまったく見られなかった。

また、質の良い人間関係を築ける潜在能力があるようにも思われた。

結局、彼が抱える具体的な問題点は、いざという場面で感じる強い恐怖心と、そのせいで行ってしまう<回避行動>にほかならなかった。

エクスポージャーを準備する

医師は彼の同意を得た上で、エクスポージャー法を中心とした認知行動療法を行っていくことにした。

まず、エクスポージャーの前段階として、彼が不安を感じる状況をリストアップした。

それが表2-2である。

不安を感じる状況 不安の強さ(0~10)  回避行動の頻度(0~10)
土曜の夜に一人で映画館へ行ったが、並んで待たなければならないはめになる 3 3
事務的な手続きを行う(銀行での振り込み依頼、保険金の支払い請求など) 3 4
他人が見ている前で小切手にサインをする 5 5
ショップやホテルなどの商業施設で、時間をかけて問い合わせをする 5 6
マンションの隣人と、駐車場、階段、郵便受けなどの前で世間話をする 5 7
同僚の教師の家での食事の誘いに応じる 6 7
PTAの会議で数分間にわたって発言をする 7 8
同僚の教師や新しい知り合いを、映画や食事に誘う 9 10

表2-2 不安を感じる状況リスト(アランのケース)

出来上がったリストを眺めながら、アランはこうつぶやいた。「こんなふうに、目標という観点から自分の不安について考えたのなんて、初めてだ・・・」。

このリストでは、彼が不安を感じる状況を、不安の強さと回避行動の頻度に従って、0~10までの数値順にランキングしてある。

数値0は、不安が全くなく、過去に一度も回避したことがない状況を意味している。

数値10は、パニック発作を起こすほど非常に強い不安を感じ、常に回避してしまう状況を意味している。

数値1~9は不安が強くなるほど値も大きくなり、たとえば数値5は、パニックになるほどではないが強い不安を感じ、過去に頻繁に回避したことがある状況、を指している。

医師はアランに、リスト上のそれぞれの状況について、そこに置かれた時にどう感じるかをひとつずつ尋ねていった。

たとえば、最上段の「映画館に並んで待つ」状況でアランはこう感じるという。

「みんなカップルや友達同士で来ているのに、ぼくだけがひとりぼっちだ。

みんな『あの人一人だわ』と奇異な目でこちらを見るに違いない。

そうしたら、僕がそわそわして落ち着かないのに気づかれてしまう。

もしみんなにじっと見つめられたら、ぼくはきっとパニック発作を起こすだろう・・・」。

彼自身も、こんな考え方はあまりにも極端でふつうではないということは百も承知である。

それでも、映画館に自分がひとりで並んでいるところを想像するだけで、こういう不安を感じてしまうのだ。

次に、こういう考え方をしないためにはどうしたらよいか、医師はアランと一緒に話し合った。

そして、時間をかけて話し合った結果、彼はこう考えることができるようになった。

「映画館にひとりで来ているのは、なにも僕だけじゃない。

よく見れば、他にもひとりで来ている人はたくさんいる。

それに、ぼくにはひとりで外出する権利がある。

第一、みんなじろじろと僕を観察したりしやしない。

たとえする人がいたとしても、せいぜい『あの人、内気なのね』と思うだけだ。

どっちにしても並んでみればいい。

どうしても嫌なら帰ってくればいいんだから」。

この時点で、彼の「不安の強さ」のレベルは2ポイントも下がっていた。

続いて、アランの行動様式について考えていった。

まず、医師の問いかけに答えながら、その状況に置かれた時の自分の姿を想像してもらう。

「ぼくはうつむき、決して周りを見ようとしない。

チケット売り場の窓口では小声で話をする。

窓口の女性から『え、なんですって!?』と苛立った声で聞き返されるだろう。

席の案内係に自分の席の場所を尋ねることもできない・・・」。

さらに、こういう状況での行動をアランに実際に演じてもらい、それをやめるにはどうしたらよいかを話し合った。

たとえば、気を紛らわすために雑誌を読みながら列に並ぶ、うつむいてばかりいないでたまには空を見上げてみる、窓口でもっとはきはきと話す努力をする、など・・・。

最後に、こういう状況に置かれてもリラックスできるよう、リラクゼーション効果のある呼吸法を学んでもらった。

まず、胸だ呼吸するのではなくゆっくりと腹から呼吸すること、そして、三秒で息を吸い、一秒止めて、三秒で息を吐くことを繰り返すこと。

不安を感じる状況でこういう呼吸法を行うことで、気持ちが落ち着く効果が得られるのだ。

エクスポージャーを実行する/評価する

さあ、エクスポージャーの前段階を終えたら、いよいよ実践の段階である。

最初のトライとして、あまり大勢の人に出くわさないよう、郊外のこじんまりした映画館で、公開されてしばらく経っている映画を観てもらうことにした。

ここで失敗をおかすわけにはいかない。

のっけから失敗してしまうと、逃避したり、パニック発作を起こしたりしかねない・・・。

実際、アランが映画館に並ぶのは学生時代以来初めてのことだった。

リスクを最小限にとどめるため、友人に付き添ってもらうことも考えたが、彼の友人の少なさから諦めざるをえなかった。

それにアランには、自分の障害を周りに隠そうとする傾向があった。

友人の前で不安な様子を見せることに、彼は羞恥心を感じてしまうのだ。

エクスポージャーの翌日、アランは満面の笑みを浮かべて診察室へ入ってきた。

期待以上の大成功だった。

実は、映画館に到着したばかりの時点では、彼は大きな不安にとらわれていた。

思っていた以上にたくさんの人がいたからだ。

だが、彼はそのまま諦めたりしなかった。

いったんは極限に達した不安は、やがて徐々におさまっていき、結局、彼は映画を楽しく鑑賞することができたのである。

二回目以降も、だいたい同じようなやり方でエクスポージャーが行われた。

そのうちに彼は、リストに載っていない状況(街中で道を尋ねる、同僚と軽口を叩く、など)にも自発的にトライするようになっていった。

しかし、リストの最後の三つの項目(誘いに応じる、PTA会議で発言する、映画や食事に誘う)に差し掛かると、やや苦戦を強いられるようになった。

そこでこれらの三つについては、さらに状況を細かく分割し、複数の段階を経ることで時間をかけてクリアするようにした。

たとえば、最後の「同僚を食事に誘う」という状況については、「旧知の友人と頻繁に昼食をとる」→「その友人を自宅に招待する」→「その友人の家での食事会に同僚を誘う」といったステップを踏んでいったのである。

こうしてアランは、事前に定めておいた目標を全てクリアすることに成功した。

彼の生活の質はレベルアップし、同僚との人間関係も改善された。

合唱団に入団したり、知らない人ばかりの旅行ツアーに参加したりもした。

ツアーでは、参加したほとんどの人達と言葉を交わし、そのうちの幾人かとは今でも付き合いを続けているという。

一番最後のエクスポージャーを終えた後、セネカの処世訓さながらに、アランはこう言っていた。「いったんやってみれば思っていたより簡単だということに気付くものだ。

とにかくやってみるしかない」

エクスポージャー法についての注意

最後に、エクスポージャー法を自分で実践してみたいという読者のみなさんのために、いくつか追記しておこう。

まず、大切なことをひとつ。

エクスポージャーをしている時に感じる不安は、最初は耐え難いほど辛いものに思われるかもしれないが、図2-1が示すように必ずいつかやわらいでいく。

図2-1 エクスポージャーを行っている時の不安の強さ

段階1 不安が強くなる
段階2 強い不安が続く
段階3 不安が和らぐ
点線a 不安がこのまま強くなっていくのではないか、という予期不安(最悪のシナリオ)
点線b 強い不安がこのまま続くのではないか、という予期不安


初めに、このことはきちんと覚えておいて欲しい。

激しい不安に見舞われると、「このままこの不安がどんどん強くなって、いつかパニックを起こしてしまうのではないか」という怖れを感じるかもしれない。

さらにその状態が進むと、やがて「この強い不安はいつまでも消えないで、やがて身心ともにくたくたに疲れきってしまうのではないか」と脅えるようになってしまうだろう。

そういう時、あなたはその状況から逃げ出すか(逃避)、うつむいて黙ったままでいるか(回避)したくなるだろう。

だが、どうか耐えて欲しい。

これは、エクスポージャーの体験者全員が保証することだが、どんなに強い不安に陥ろうと、必ずその不安はやわらいでいくのである。

もうひとつ、エクスポージャーは何度も繰り返し行わなくてはならない、ということも覚えておいて欲しい。

私達の心にしっかりと根を張った<社会不安>は、たった一度のエクスポージャーで消え去るものではない。

一回成功したからといって、次からまったく不安を感じなくなる、というわけにはいかないのだ。

エクスポージャーによって不安がやわらぐことは間違いない。
しかしそれは、図2-2にもあるように、本当に少しずつの変化なのである。


図2-2 エクスポージャーの回数と不安の強さ

社会不安障害のエクスポージャー法のまとめ

エクスポージャー法は、誰でも簡単に実行できて、高い効果を得ることができる訓錬法だ。

<社会不安障害><社会不安>治療の専門家たちも、心理療法におけるエクスポージャー法の重要性を口を揃えて認めている。

実際、プログラムを終了した後も自発的にこの訓練を続けていた人は、その後もさらに<社会不安障害><社会不安>の症状が改善されている。

また、エクスポージャーによって得られた成果はそれから一年半以上過ぎても変わらなかった、という研究結果も出ている。

さらに、エクスポージャーに成功すると、不安を感じる人の<絶対的信念>、つまり<スキーマ>が変わることもある。

多少のことでは揺らがない頑固な<スキーマ>が、「危険に身をさらすことで改善される」という方針に従って行動することで修正が可能になるのだ。

確かに、何年にもわたって避け続けていた状況にうまく立ち向かえたとしたら、自分に対する評価が180度変わることもありうるだろう。

とにかく、逃げ続けていても<社会不安障害><社会不安>は治らない。

医師と相談者が診察室に閉じこもって、不安を感じるようになった理由をさがしているだけでは、決して問題は解決しない。

診察室から飛び出し、あえて不安に身をさらすことで、初めてこれを克服できるようになるのである。

アドバイス 実践のポイント コメント
エクスポージャーは十分に時間をかけて行うこと 不安がやわらいできたと感じられるまでの平均時間は、20~40分である あるいは20~40分の間、短いエクスポージャーを何度も繰り返し行うのも有効である(たとえば、複数の通行人に次々と道を尋ねる、など)。
エクスポージャーは、定期的に繰り返して行うこと 生活の妨げになるほどの強い<社会不安障害><社会不安>を克服したいなら、決して時間を惜しまないこと。1日あたり20~30分間は行うことが望ましい 重い<社会不安障害><社会不安>の場合、エクスポージャーを繰り返すうちに、症状が改善する速度が遅くなっていく。しかし、決して焦らないこと。必ず不安はやわらいでいく。
エクスポージャーは、徹底して行うこと 他人の視線から逃れようとしたり、沈黙を避けようとしたりする、ごくささいな回避行動も決して許さないこと。 いくらエクスポージャーを繰り返してもなかなか不安がやわらがないようなら、ちょっとした回避行動をしてしまっていないか、よく考えてみること。回避行動が習慣化している場合、本人が気づかないうちに行っていることもある。
エクスポージャーをしている時は、自分自身に集中し過ぎないよう気を付けること エクスポージャーの実行中は、自分の感情や行動にではなく、外のことに意識を集中すること。他の人達、周りにあるものをよく観察する。 <社会不安障害><社会不安>を感じる人が意識を自分の外へ向けられるようになるほど、不安は軽減される、と証明する研究結果も出ている。

表2-3 エクスポージャー成功のためのアドバイス