社会不安障害と診断されるためには、「不安のために著しく苦しんでいる」ということと

「不安の結果として生活が障害されている」ということが必要ですので、「障害」になるかどうかは周囲の環境とも関係してきます。

特に限局性(非全般性)の社会不安障害の人の場合は、その傾向が明らかです。

たとえば、人前で話すことに恐怖を持っている人は、人前で話す必要のない仕事を選んでいれば病気としての社会不安障害を発症しないかもしれません。

逆に、それまで有能だった会社員が、毎週のスタッフ・ミーティングの責任者になったことによって社会不安障害を発症することもあります。

全般性の社会不安障害の場合ですら、病気を理解するために周囲の環境について知ることは重要です。

小さな町で育ち、成人してからも同じ町で兄弟や幼馴染との親しい関係を持って暮らしている人は、普段は自分の社会不安に悩むことはあまりなく、恐怖がとても強い場合にのみ問題を抱えることになるでしょう。

同じ町の出身でも、大都市に出て大きな大学に行った人は、ちょっとした状況でも問題が起こってくるかもしれません。

人によっては、ある時期、社会不安障害の症状がほとんど気にならなかったと言う人もいます。

たとえば、社交的な部分を担ってくれる人と結婚している間は自分の社会不安に向き合わなくてもよかったけれども、配偶者が亡くなって自分自身が社会に直面せざるを得なくなると社会不安障害が強く出てくる場合もあります。

留学のような新しい状況において症状を悪化させる人もいますが、逆に、次のタロウさんのようなケースもあります。

タロウさんは、高校時代に発症した社会不安障害を持っていました。

大学の途中でアメリカに留学したのですが、その期間はほとんど不安に苦しむことがありませんでした。

英語は決して得意でなかったというのに、です。

なぜかということを考えてもらうと、アメリカでは日本のように「〇〇という行動をとると××と思われる」という常識が通用しないと思ったことと、とにかくコミュニケーションしていかないと生き残れないので、相手に伝えることだけを考えて必死でコミュニケーションしていた言うのです。

タロウさんの社会不安障害は日本に帰国すると同時にひどくなりました。「とにかく伝えること」に意識がいっていたアメリカ時代と違って、「自分がどう見られるか」に意識が戻ってしまったからでした。

もちろん、タロウさんのようなパターンは、対人関係療法では大きなヒントになりますし、治療のなかで生かしていくことができます。

※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著