社会不安障害の人は、子ども時代や思春期に仲間との満たされた関係を持っていたということが少ないものです。
いじめられた、からかわれた、無視された、というような経験を持っている人は多いですし、友達がいないということで悩む人も多いです。
もちろん、社会不安障害という病気になった結果として対人関係が希薄になる、ということも事実ですし、「自意識過剰」になった結果として自分が無視されていると感じることもあるでしょう。
でも、ある研究からは、「拒絶」は社会不安障害の結果ではなく、きっかけになるということが示されており、いじめや無視など拒絶されるような体験が社会不安障害につながるということは事実なのだと思います。
ある社会不安障害の患者さんは、高校時代に、クラス全員の前で、教師から屈辱的な形で叱責を受けました(虐待と呼べるレベルのものでした)。
そのときに誰も助けてくれなかっただけでなく、それから皆が自分をあざ笑うようになったと言います。
彼にとっては、それが社会不安障害の発症に明らかに繋がったポイントでした。
思春期の場合、社会不安障害が「非行」につながるというケースもあります。
次のマヤさんの例を見て下さい。
マヤさんは、高校時代、答えがわかっていても授業中に手を挙げなくなりました。
実際に彼女は優秀だったのですが、何かおろかなことを言ってしまいクラスメイトに笑われたり教師に見放されたりするのが恐かったのです。
彼女はもともと成績がよかったため、そんな態度が教師の目には「授業をバカにしている」というふうに映り、プライドが傷ついた教師は社会不安障害のマヤさんのことを冷たく扱うようになりました。
そんなころ、社会不安障害のマヤさんのさびしさや自信のなさを埋めるような形で優しくしてくれたクラスメイトがいました。
実はそのクラスメイトは地元の非行グループに入っていました。
社会不安障害のマヤさんは、その「優しい」クラスメイトに誘われるがままにグループの一員になりました。
そのクラスメイトと共に、社会不安障害のマヤさんは不登校になり、いわゆる「非行少女」になりました。
仲間に溶けこみたい、認めてもらいたい、という一心で、覚醒剤すら使ったのです。
マヤさんのようなケースを「非行少女」ではなく「社会不安障害」として見るには、ある程度の知識が必要でしょう。
マヤさんの場合は、教師による拒絶以前に社会不安障害が発症していたようです。
でも、周囲がもっと適切に関わっていたら、覚醒剤を使用するところまでは進まなくて済んだかもしれません。
社会不安障害のマヤさんの例のように、思春期の非行には、不安障害やうつ病など精神科の病気が背景にあることが多いものです。
社会不安障害のマヤさんの場合は居場所を求めてのことでしたが、「非行」という仮面をかぶってしまえば実際の自分を見せずにすむという理由で、非行を続ける社会不安障害の人もいます。
※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著