シラネさんにとって、変化は比較的急にやってきました。

新入社員が入る一カ月前に、「新年度からは研修を担当してもらうから、準備するように」と上司から言われたのです。

「そんなに急に言われても、心の準備もできませんよね」と言うと、シラネさんは「でも、仕事に慣れてきたら後輩の面倒を見るのは当然のことだし、会社員なら誰でも予測しておくべきことです」と言っていました。

このように、「べき論」は気持ちを覆い隠すのが得意です。

社会不安障害やうつ病の方などと話していると、「べき論」が多いことに気づきます。

もちろんそれだけ社会的規範意識が強い方だとも言えますが、自分の気持ちに触れてみようとするときにはかなりの障害物になります。

シラネさんには、「いずれ起こりうることと何となく思っていることと、現実に一か月後にそれが起こると急に知らされることとは、全く違うと思いますよ。

ふつう、かなり驚くのではないですか?」と医師は伝えました。

時間はかかりましたが、シラネさんは、やはり突然の変化に驚いたこと、「もっとはやく言ってくれればよかったのに」「研修担当にならなくてすむ方法があるのかどうかも教えてほしかったのに」と内心思ったことなどを教えてくれました。

もちろん、こうした気持ちはみな「当然の感情」ですから、そのように受け入れていきました。

※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著