社会不い安障害の人によく見られる「役割の変化」として、自分自身の社会的役割が変わるというものがあります。

どんな変化もストレスになりえますし不安を喚起しうるものですが、社会不安障害の人の場合、特に、人とのやりとりの形式が変わるような変化には敏感に反応します。

次のシラネさんは、「役割の変化」が社会不安障害の人にどのような影響を与えるかがよく現れている例です。

会社員のシラネさんは、新人研修を任されるようになってから職場に行くのが本当に辛くなりました。

つらさは研修の初日から始まりました。

初日に、入念に準備した資料を使って説明をしていたときに、新人社員の一人があくびをしたのです。

自分の研修は平凡で退屈なのだ、とシラネさんは感じました。

後輩が仕事への情熱を感じられるような刺激的な研修ができない自分を恥ずかしく思ったのです。

それ以来何を話しても後輩の目が「お前は使えない研修担当者だ」と言っているような気がして、何かを説明しようとしてもしどろもどろになってしまいます。

そしてそんな自分を本当に無能だと感じていました。

それまでのシラネさんは、確かに対人関係は苦手でしたが、自分に任された仕事をコツコツとやっていました。

その堅実な仕事ぶりが認められて研修担当になったのですが、任された仕事をコツコツやることと、他人に教えることは、全く性質の違う仕事でした。

シラネさんは、仕事における人とのやりとりの形が全く変わってしまうという「役割の変化」を経験したので、まさに社会不安障害という病気の中心的なテーマである「人とのやりとり」を直撃したことになります。

その他、親しい人との関係性が物理的・精神的に変わってしまう(相手が遠いところに行ってしまう、相手が結婚して今まで通りの友人付き合いができなくなる、など)、いじめのようなネガティブな経験をする、なども社会不安障害の人にはよく見られる「変化」です。

また、ある状況で「頭が真っ白になる」などの不安反応が起こったときに、それがひとつの「役割の変化」になることもあります。

それまではあまり意識せずにこなせていたプレゼンテーションなどの最中に頭が真っ白になるという体験をたまたましてしまったことによって、社会不安障害が発症する人もいるのです。

この場合、変化しているのは「あまり意識せずにプレゼンテーションをこなせる役割」から「また頭が真っ白になるのではないかという恐怖を常に感じながらプレゼンテーションをしなければならない役割」ということになります。

※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著