社会不安障害の治療のなかで新たな対人関係パターンを試していく時には、できるだけハードルを低くします。
治療による変化を起こしていくことに不安がともなうのは仕方のないことではありますが、その不安を「ぎりぎり耐えられるレベル」に設定していくのは重要です。
そうしないと、試してみようという気持ちを奮い立たせることもできなくなってしまいます。
ハードルを低くするために、「自分のペースでやっていく」という考え方が役に立ちます。
人とのかかわりについての条件を、できるだけ自分のコントロール下におくのです。
たとえば、同じ電話でも、相手からかかってきた電話に出るのか、自分からかけるのかでは、大きな違いがあります。
相手からかかってくる場合には、「いつかかってくるか」というタイミングを自分でコントロールできないからです。
「電話で話す」という条件は残してチャレンジするのであれば、「話すタイミング」という条件は自分のコントロール下に置くことで、ぐっとハードルを低くすることができます。
具体的には、相手からかかってきた電話には出ずに、職場の電話であれば誰かにとってもらい、自分の携帯電話であれば着信履歴に残しておいて、こちらから改めてかけ直すというやり方をとることができます。
あるいは、「電話で話す」という条件だけでもハードルが高すぎるように感じられたら、まずはメールであらましを伝えるという手もあります。
「後ほどこちらからお電話して、〇〇ということをご相談したいと思います」とあらかじめ伝えておけば、電話での話題もある程度自分でコントロールする事が出来るでしょう。
コントロール感覚は不安とつきあう上でとても重要なことです。
もうひとつは、対人関係のの難易度のハードルを下げるというやり方です。
いきなり「本丸」を攻めるのではなく、周辺から固めていくのです。
人との関係を作ることへの不安が強い場合に、ただ人とお茶をしておしゃべりするなどという状況にいきなり挑むのは難しいことです。
適切な話題を選ぶ、話しかける、会話にメリハリをつける、空気を読む、など、社交の場には必要とされる技能が多すぎます。
それよりも、趣味のワークショップなど、課題が決まっている場に一参加者として参加するほうが、話題を選ぶ必要もなければ、自分から話しかけなくても会話に参加しやすいでしょう。
そのような場に参加できるようになり、友人ができれば、お茶をするというような状況も、前ほど圧倒的な感じがしなくなるかもしれません。
ハードルの低い人間関係としては、仕事における人間関係が挙げられます。
人によっては、仕事は「自分という人間を評価される場所」としてむしろ不安が刺激されてしまうということもありますが、一般に、仕事における役割は定義がはっきりしているため、「得体の知れない不安」が少ないのです。
そこで話すべきことも基本的には決まっていますし、仕事上の社交辞令にしても、「相手をリラックスさせる」など目的が決まっていますので、取り組みやすいのです。
仕事の領域で自信をつけると、そうでない人間関係においても新たなパターンを試してみようという気持ちになってきます。
まずはハードルの低いところから始めることが、不安に対して不安になるという悪循環をできるだけ抑えることにつながります。
※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著