不安という感情の意義を考えてみれば、リスクをとることに不安を感じるのはとても正常なことで、誰もが経験することです。

しかし、あまりにもリスクを回避し続けると、自己肯定感を高める機会が失われていきます。

不安を感じるのは当然のことだとしても、いつもと異なるパターンに一歩を踏み出すことには大きな意味があります。

ここでのポイントは、状況に自分も責任を負うということです。

状況に責任を負うという事は、それだけ結果にも責任を負うことになりますので、リスクはあります。

でも、「自分は状況に責任を負える人間なのだ」という感覚は、自己肯定感を高めるものです。

少なくとも、状況が他人次第ということではなく、自分もそこに何らかの影響を及ぼすことができれば、コントロール感覚をもたらすことにはなるからです。

対立というテーマについても別の見方をすることができます。

社会不安障害の人は、対立というものは取り返しのつかない結果につながると思い込んでいます。

これは日本の文化や価値観を考えると決して異常なことではないのですが、実際には人間とは案外ものわかりのよいもので、意見が対立するケースのすべてが破滅的な結果につながるわけではありません。

すべての対立が不愉快なレベルまでエスカレートするのではなく、多くの対立が、話し合いによって、むしろ事態の改善につながるのです。もちろん不愉快なレベルにエスカレートすることもありますが、それはどちらかが故意にそれを引き起こしたときです。

対立を前向きに扱っていくために参考になるのは、「私」を主語にして話すことです。

誠意を持って、自分の気持ち、自分のニーズを話している限り、対立が破滅的な結果につながることはまずありません。

対立が争いに発展するのは、相手について決めつけるような物言いをする場合です。

「境界線」の話
で言えば、相手の敷地内に入り込んで相手についての決めつけをしてしまえば、相手はとても不愉快になるでしょう。

しかし、こちらの敷地に留まって、自分の気持ちや希望を話している限り、相手は不愉快にはならないはずです。

たとえば、自分はAというやり方が効果的だと思っているけれども、相手はBというやり方が効果的だと思っているような場合に、「私はAがいいと思う。Bだとすると、〇〇になるのではないかということが心配だ」と話せば、相手は賛成してくれるかもしれないし、「××だから、〇〇という事にはならないと思うよ。Bでも大丈夫」「〇〇ということになったとしても、△△というふうに解決できるから大丈夫だよ」というように、さらなる情報を提供してくれて話し合いが深まるかもしれません。

しかし、「Bなんて、うまくいくわけがないでしょう」などという決めつけをしてしまうと、相手はカチンとくるかもしれません。

対立は、扱い方さえ間違えれば、関係を深めることにつながるのです。

※参考文献:対人関係療法でなおす社交不安障害 水島広子著