社会不安障害の人は日常生活や社会活動への適応が困難

社会不安障害は、パニック障害、全般性不安障害、強迫性障害と並んで分類される「不安障害」の一種です。

「社会不安障害」と表記していますが、2008年に開催された日本精神神経学会で「社交不安障害」に変更され、近年は「社交不安症」との表記もみられるようになりました。

社会不安障害の中心にあるのは、「恥ずかしい思いをするかもしれない」という社会的状況または行為状況に対する顕著で持続的な恐怖です。

社交不安障害の患者は、人と接する社会的場面において、常に強い不安状態にさいなまれています。

実際に、不安の対象となる社会的場面に遭遇した場合には、動悸、振戦、発汗、胃腸の不快感、下痢、緊張、紅潮、混乱といった種々の身体的症状が表れます。

そして、それらの諸症状によって、日常生活や社会活動への適応が困難になり、人間関係を阻害します。

その結果、不安の対象となる社会的場面に遭遇することを回避するようになり、学校中退、不就業、アルコール依存症、結婚できないなどの問題が起こるのです。

実際、社会不安障害の患者は、無職だったり、就職していても出世が望めないなどの問題が起こるのです。

実際、社会不安障害の患者は、無職だったり、就職していても出世が望めないなど、経済的・社会的に困窮している場合も多いといわれており、適切な治療を受けないことによる生活の質(QOL:Quality Of Life)の低下が問題になっています。

社会不安障害の人は引っ込み思案の目立ちたがり屋?

社会不安障害の人は、控えめで不安そうに見えるのが一般的です。

しかし本来の性格は「引っ込み思案の目立ちたがり屋」です。

「引っ込み思案」と「目立ちたがり屋」という、一見正反対に思える2つの性格が同居しているのが、社会不安障害の人なのです。

典型的な社会不安障害の人の特徴は、頭がいい、仕事ができる、優秀、気配りがきく、ミスが少ない、勤勉、真面目、地道な作業が得意、慎重で緻密、人を裏切らないなどと素晴らしいものです。

一目控えめで寡黙なため、職人気質な感じも受けます。

しかし、静かに見える内側には、実は負けず嫌いな性格や旺盛な出世欲が潜んでいるのです。

そのため、治療をして症状がよくなると、引っ込み思案が消えて目立ちたがり屋が出てくるため、突然の変化に「躁転したのではないか」と疑われることがあります。

しかし、躁転したわけでもなく、性格が変わってしまったわけでもありません。

それこそが、本来の姿なのです。

ちなみに、治療により躁転してしまった場合は、双極性障害が疑われます。

社会不安障害の有病率は精神障害第3位

米国の疫学調査によると、社会不安障害の生涯有病率は13.3%です。

その有病率は大うつ病性障害17.1%、アルコール依存症14.1%に次いで、精神障害の中で第3位。

社会不安障害はけっしてまれな病気ではないのです。

そして社会不安障害は、発症年齢が若いという特徴があります。

アメリカでは平均発症年齢は15歳との調査報告がありますが、実際は小学校高学年での発症もめずらしくはありません。

しかし、病院を受診するのはほとんどの人が成人してからです。

中には発症から20年以上経過している人もいます。

それはなぜか。

答えは「なんとかやってこれたから」です。

社会不安障害は若い頃は回避する生活が可能

きっかけはどうであれ、若くして社会不安障害を発症した人は、できるだけ人前に出ないように上手に生活してきた人がほとんどです。

例えば、学級委員や生徒会などにならなければ、大勢の前でしゃべる機会はそうありません。

発表会なども積極的に裏方に回れば楽しく参加できます。

大学では、ディスカッションが重要視される授業は選択せず、レポート提出だけで単位が取れる授業を選択すればいいのです。

最初の難関は就職活動かもしれません。

社会不安障害のひとには優秀な人が多いので、筆記試験は乗り越えられるでしょう。

問題は、面接です。

しかし、ここも難なくクリアできてしまいます。

それは、面接で緊張するのは当たり前だからです。

面接官も、目の前で緊張している学生が社会不安障害であるとは思わないはずです。

「面接は誰でも緊張するものです。リラックスしてください」などとやさしく声をかけてくれる場合もあるかもしれません。

過度に緊張する姿を見て、逆に「一生懸命なんだ」と好感を持つかもしれません。

こうして、若くして社会不安障害を発症した人も、無事に就職します。

社会不安障害は早期治療が望ましい

しかし、希望の仕事に就くことができた彼らの、やる気に満ちた社会人生活が崩れていくまでに、そう時間はかかりません。

まず、社会人になると、苦痛なことから回避することが難しくなります。

特に、人前でしゃべることができないのは致命的です。

場合によっては、人前で食事ができない、人前で文字が書けないといった症状も、仕事に支障をきたすかもしれません。

学生時代のように上手に回避しながら生活することが困難になり、症状を悪化させていきます。

こうなってようやく、クリニックを受診する場合がほとんどなのです。

なかには、会社に行けない、外に出ることができないなど、重症化してしまっている場合も多く、退職を余儀なくされるケースもみられます。

受診のきっかけは、就職のほか、結婚や出産をして母親同士のつき合いが始まり、人間関係につまずいてしまった、就職もして順調に出世したとたんに症状が出てきて立ち行かなくなったなどもあります。

ほとんどの場合は、すでに発症からかなりの年月が経過していますが、社会不安障害の治療はいつでも可能です。

ただし、罹病期間が短いほうが薬の効果がすぐに表れ、服薬期間も短くなります。

また、無治療のままで経過すると、患者の半数以上がうつ病あるいは他の不安障害を合併し、かつ病態が遷延化するとの調査報告もあります。

そこで近年、発症早期からの社会不安障害に対する治療の必要性・重要性が指摘されています。

※参考文献:あがり症のあなたは<社交不安障害>という病気。でも治せます! 渡部芳徳著