落ち込みと気分の高揚が交互に表れる双極性障害
気分障害は大きく2つに分けられる精神障害です。
ひとつが「大うつ病性障害」、もう一つが「双極性障害」です。
実は、社会不安障害にとってもっともやっかいな病気が、この双極性障害なのです。
一般には「躁うつ病」として知られてきた気分障害のひとつが双極性障害です。
その名の通り、気分が落ち込んでいるうつ状態と、反対に気分が異常に高揚している躁状態が、代る代わる表れます。
症状が極端から極端に振れるので、双極性と呼びます。
躁状態になると、早口でしゃべり続けたり、夜もほとんど寝ずに仕事や遊びを続けたり、大きな買い物をしたり、異性に積極的になったり、荒唐無稽な計画を語り、新しいことを始めたりします。
しかし、この躁状態がずっと続くことはなく、その反面、いつか必ずうつ状態が表れます。
双極性障害はうつ病と判別することが重要
社会不安障害にとってやっかいなのが双極性障害とお話ししました。
それは、双極性障害の診断の難しさにあります。
双極性障害の大きな診断目安となるのは、躁です。
しかし、クリニックを受診するときは、決まってうつ状態の時です。
気分の高揚した躁状態で受診する人はほとんどいません。
また、気分がよい状態を「うつがよくなった」と勘違いする場合もあります。
また、躁状態が極端に短い場合もあるため、長期の気分変動を記録し、そこから躁状態がないか探し出す必要があります。
つまり、通常の診断だけで躁状態を発見することは、たいへん困難なのです。
しかし、双極性障害をうつ病と診断ミスしてしまうと、取り返しのつかない事態を招くおそれもあります。
そしてそれは、社会不安障害の治療にも大きく影響します。
それはなぜか。
治療薬が全く違うからです。
双極性障害はSSRIの服用で思わぬ副作用が
通常のうつ病(大うつ病性障害)では、SSRIが使用されます。
この薬はうつ病の第一選択治療薬として認知されています。
たしかに、うつ病にはよく効く、たいへん素晴らしい薬です。
しかし近年、SSRIの副作用によって、自殺や重大な事件を起こしたという報告が多数あがっています。
例えば、SSRIを服用中になんの前触れもなく自殺してしまった、SSRIを服用している夫が妻を刺殺し自殺した、銃乱射事件の犯人はSSRI服用者だったなどです。
ある臨床医は、SSRIの作用に疑問を抱いていました。
というのも、そのクリニックでも、過去に、SSRIを服用中に自殺してしまった患者さんがいたからです。
また、クリニックの待合室で暴言を吐きながら手が付けられないほど暴れた女性患者さんは、SSRIを服用していました。
そのほかにも、思い当たる出来事がいくつもあったのです。
しかしその臨床医は、SSRIは素晴らしい薬だといいました。
では、何が問題なのかというと、そもそもの診断ではないかと思っているのです。
つまり、前述した患者さんたちは皆、うつ病ではなく、実は双極性障害だったのではないかと疑っているのです。
自殺してしまった患者さんについては、残念ながら、いまとなっては分かりませんが、クリニックで暴れた女性は、その後の診断で、うつ病ではなく、双極性障害であることが分かりました。
やはり、今までの診断が間違っていたのです。
すぐにSSRIの服用を中止し、双極性障害のメイン治療薬である気分安定薬を処方しました。
すると、あんなに暴れていたのがウソのように、落ち着いた態度で診察が受けられるようになったのです。
これにより、彼女が攻撃的になって暴れていたのは、SSRIの副作用によるものだったのだと確信しました。
このように、双極性障害の患者さんにSSRIを処方してしまうと、思わぬ副作用が表れる場合があるため、うつ病と双極性障害の診断は、慎重かつ正確に行わなければなりません。
双極性障害の第一選択治療薬は気分安定薬
うつ病の治療薬のSSRIは、社会不安障害の特効薬でもあります。
つまり、社会不安障害にうつ病を合併している場合は、双方の特効薬であるSSRIの処方で問題ありません。
しかし、社会不安障害と双極性障害では薬が違うため、双極性障害を合併していることに気付かずにSSRIを処方してしまうと、思わぬ副作用が表れる危険があるのです。
これこそが、双極性障害がやっかいだといった最大の理由です。
社会不安障害に双極性障害を合併したケースは、治療が非常に難しいのです。
双極性障害の治療も気分安定薬を中心とした薬物療法と心理教育が二本柱になります。
双極性障害の心理教育では、躁状態のときは病気と思っていないどころか、心地よいとさえ感じている患者さんがいること、逆にうつ状態になると本人はつらいが、周囲からは「なまけている」などと思われてしまうことがあることを学び、このような誤解をなくすよう指導されます。
※参考文献:あがり症のあなたは<社交不安障害>という病気。でも治せます! 渡部芳徳著