社会不安障害と、もっとも識別しなければいけない疾患は、妄想性障害である統合失調症です。

社会不安障害と統合失調症は勘違いされやすく、見た目だけで判断するのは難しいといえます。

統合失調症や妄想性障害も、社会不安障害と同じような症状を引き起こします。

しかし、社会不安障害では、統合失調症と違い、恐怖が不合理であることを認識し、他の精神病症状がありません。

反対に、次のような場合は、統合失調症や妄想性障害を疑います。

●状況依存性がはっきりしない場合

●妄想の対象が拡散している場合

●妄想と欠点の関係が明確でない場合

●加害性より被害性の思考が優位な場合

●自責感より他罰的な訴えが多い場合

●体幹異常や離人症などを合併している場合

●周囲と親密な感情接触を求めない場合

●精神病性人格変化を疑わせるなどの特徴がみられる場合

など

社会不安障害が統合失調症と誤診されていた例

他のクリニックで統合失調症と診断されていた方が、よく調べてみたら社会不安障害だったという例がいくつもあります。

その中の一人、吉田さん(仮名)の例を紹介しましょう。

吉田さんは出版社に勤務している30代の女性です。

小学生時代の彼女は、いつも明るく目立つことが大好きでした。

しかし、ある発表会のミュージカルで主役を張ってから、同級生などから「生意気だ」などといじめられるようになってしまいました。

ボコボコに殴られたこともあったそうです。

以来、人前に出ると、とても緊張するようになり、性格も全く別人のように変わってしまいました。

当然、ミュージカルで主役を張るようなこともなく、翌年の舞台では一転、裏方に回りました。

彼女は、それでも友人たちに支えられて学生生活をなんとか乗り切り、一流私立大学を卒業します。

しかし、出版社に勤務してから、人間関係につまずき、恐怖心で出社できなくなります。

以来、5~6年にわたり、家に引きこもってしまいました。

吉田さんは父親に連れられて病院を訪れました。

彼女を見た第一印象は「なんだかドローンとして、だるそうだな」ということでした。

医師は父親と彼女から話を聞き、診断スケールや光トポグラフィなどを実施。

そして、彼女は社会不安障害であると診断したのです。

ところが、吉田さんは最初に行った病院で統合失調症と診断されていました。

「人の視線が気になる」「自分の悪口を言っているのではないか」など、いかにも統合失調症を思わせる症状がでていたからです。

しかし、統合失調症として抗精神薬などの投与をうけたところ、ますます具合が悪くなり、病院に入院までさせられたというのです。

吉田さんの症状は統合失調症による幻覚・妄想ではなく、視線恐怖でした。

つまり、誤診だったのです。

私が初診時に感じた「だるそう」という症状は、誤った薬を飲んでいたことによって生じた副作用でした。

すぐに抗精神薬の投与を中止しました。

しかし、長年投薬を続けていたためになかなか薬の作用が抜けません。

それでも診察を重ねたところ、徐々に症状が改善。

なんと間違った薬の投薬を止めただけで回復へと向かったのです。

その後、SSRIを基本とした正しい投薬治療を始めました。

するとみるみる回復。

半年後には新しい職場に就職も決まりました。

現在は服薬を続けながら、元気に働いています。

間違った投薬が症状を生む

吉田さんの例は、社会不安障害を統合失調症として誤診されてしまった上に、間違った投薬を受け、薬が新たな症状を生んでしまったケースです。

本来必要のない抗精神薬を飲み続けていたのですから、副作用が出てくるのは当然です。

薬によって精神が強く抑制された結果、体が重くだるい、何も考えられない、何もしたくないという、思いうつ病のような状態に陥ってしまったのです。

投薬を止めたら症状が改善したという事実が、誤診だったことを示す何よりの証拠でしょう。

確かに、視線恐怖は統合失調症と判別しづらい部分があります。

だからこそ、診断スケールや光トポグラフィなどの診断補助ツールが必要なのです。

しかし、これらのツールの結果を治療に生かすためには経験も必要です。

例えば、何かしらの薬を飲んでいる患者さんに診断スケールをやってもらった場合は、薬の作用を差し引いて考える必要があります。

つまり「今示している状態といま飲んでいる薬の関係は?」「飲んでいる薬は正しいのか?」を考えるわけです。

薬を飲み過ぎていることによって症状が表れてしまっているのではないか、薬の副作用でいまの状態になっているのではないか、薬の影響が悪い方向に出てしまってはいないか、処方は正しいのかなどを総合して確認するのです。

医師は、どんな状況においても正しい判断を必要とします。

さまざまなパターンを頭に入れ、経験をもとに診察します。

そして、その精度を上げるのが診断スケールであり、診断補助ツールなのです。

※参考文献:あがり症のあなたは<社交不安障害>という病気。でも治せます! 渡部芳徳著