社会不安障害の症状は、これまではどちらかというと「性格の問題」ととらえられてきました。

社会生活に大きな支障をきたす以上、なんらかの対策が必要なはずですが、「性格だからしようがない」と、患者さん自身はもちろん、医師や臨床心理士といった専門家たちも、なかばあきらめる傾向が強かったのです。

しかし、社会不安障害が精神疾患ととらえられるようになり、事情が大きく変わってきました。

そのきっかけは、「社会不安障害」という病名が、1994年に発表された米国精神医学会の診断基準に掲載されたことです。

米国精神医学会が定期的に改訂しながら発表している診断基準は、「DSM」の略称で知られ、世界的に用いられています。

1980年に「DSM-Ⅲ」で「社会恐怖」として独立した診断名がつけられ、その最新版である「DSM-Ⅳ」に「社会不安障害(SAD)」という、より一般的な病名が併記されるようになったのです。

その結果、社会不安障害という病名が、世界的に認知されました。

その後、米国で大規模な調査を行ったところ、社会不安障害の生涯有病率、つまり、過去に一度でも社会不安障害と判断される症状を経験したことがある人は、3~13%にも及ぶことがわかりました。

8~30人に1人というこの割合は、予想をはるかに上回る数字でした。

日本に比べ、社会不安障害が少ないと見られていた米国でさえ、このような高率で患者さんが存在するという報告は、医師や臨床心理士に、少なからぬショックを与えました。

そのことは、私達が社会不安障害という病気に、関心を抱く大きな契機にもなったのです。

※参考文献:人の目が怖い「社会不安障害」を治す本 三木治 細谷紀江共著