DSM-Ⅳは世界的に用いられている診断基準で、それをもとに4つの質問事項を設け、その結果によって社会不安障害であるか否かを診断できるマニュアルがあります。

臨床の現場では、患者さんと面接して4つの質問事項を読み上げ、「はい・いいえ」で答えてもらうことにより、主な精神疾患の初期診断ができるようになっています。

専門家でなくても、ある程度トレーニングされた人(保健師など)なら使えるよう、簡単に作られているのが大きな特徴です。

ですから、短時間で診断でき、統計をとるにも都合がよいのです。

その分、厳密さに劣るとして賛否両論がありますが、診断・調査に時間がかかると、病気の実態が把握できず、対策もなかなか進みません。

そこで、合理的なことを重んじる米国らしく、まずは病気の実態を知ろうという目的で、このマニュアルが作られたのです。

近年の米国では、社会不安障害について、このマニュアルを用いたいくつかの大規模な疫学調査(病気や健康状態について広い地域や多数の集団を対象とし、その原因や発生状態を統計学的に明らかにする調査)が行われています。

その結果は、多くの人の予想を裏切るものでした。

それほど多いとは思われていなかった社会不安障害の患者さんが、かなり存在することがわかったのです。

その生涯有病率は、個々の調査によって幅があるものの、3~13%にも及びました。

つまり、国民100人のうち、少ないデータでも3人、多いデータでは13人が、生涯に一度はこの病気を経験するというのです。

驚くべき結果でした。

患者数の多さは、精神科領域の病気全体で見ると、1位のうつ病性障害、2位のアルコール依存症に続き、社会不安障害が3位という結果が出ています。

また、不安障害全体のなかでは、社会不安障害が1位となっています。

これらも、多くの専門家にとって、やはり意外な結果でした。

不安障害のなかでは、パニック障害などが多いと思われていましたが、実際には社会不安障害がトップだったのです。

社会生活についての調査では、社会不安障害の患者さんは、一般に比べて既婚率が低く、別居率・離婚率は高いという結果が出ています。

これは、社会不安障害によって、仕事や日常の人間関係に支障をきたしやすく、社会生活が制限されるためと思われます。

[社会不安障害の人とそうでない人の社会生活の比較]

社会不安障害の人 社会不安障害出ない人
既婚率 47.4% 59.4%
別居率 4.6% 3.7%
離婚率 11.2% 6.0%
死別率 7.8% 9.4%
未婚率 28.7% 21.3%

受診率についての調査では、初めから社会不安障害として受診した人は3%程度にすぎませんでした。

不安・恐怖・抑うつ気分を主な訴えとして受診した人が33%いましたが、残りの64%は医療機関で受診していない”潜在患者”であることがわかりました。

この64%の潜在患者は、社会不安障害の症状を、自分の性格の内気さゆえに起こっているものと認識し、日常生活に困難さや苦痛を感じながら暮らしているという実態も明らかになりました。

社会不安障害の発症年齢は、十代後半から二十代後半までに最も多くなっています。

男女比は、疫学調査では女性に多いという結果が出ていますが、臨床の場面では、男女同等か男性にやや多いという印象が持たれているようです。

以上は米国での結果ですが、おおむね日本でも当てはまると考えられています。

有病率については、日本よりはるかに少ないと予想されていた米国で、これだけ高い数字が出たことは、わが国の研究者にとっても少なからずショッキングな結果でした。

社会不安障害は、その一部が対人恐怖症と重なることもあり、日本人に多い病気だと思われていましたが、民族や人種を問わず見られることがわかったのです。

社会不安障害の患者さんが、その症状を「自分の性格のせい」だと思い込み、結果的に受診率が著しく低くなっていることは、治験を行ったときにも強く感じられました。

治験への協力を申し出て下さった患者さんたちの多くから、「自分の性格のせいだと思っていました」という意味の言葉が聞かれたからです。

「人前で緊張せずに自分らしくふるまえる人を見ると、『ああいうふうにできたらいいな』と思い、『でも自分はこういう性格だからしようがない』とあきらめていました」とおっしゃる人もいました。

社会不安障害を疑われる症状があり、苦痛や生活上の支障が大きい人は、性格のせいと思い込まずに、ぜひ一度は専門家に相談してほしいと思います。

※参考文献:人の目が怖い「社会不安障害」を治す本 三木治 細谷紀江共著