社会不安障害の診断では、患者さんの話をじっくり聞き、生活や仕事上の人と関わる場面で、どのような不安感や恐怖感をどのくらい感じているか、あるいはそういう状況を回避しているか、それらによって、どの程度の制限や支障が生じているかを診ていきます。

うつ病など、ほかの精神疾患でないことを確かめたうえで、単に内気なだけなのか、それとも社会不安障害なのかを見きわめていきます。

その大きなポイントは、その人の苦痛の大きさや制限・支障の程度です。

それらによって、本来の社会生活が大きく損なわれている時は、社会不安障害と診断されます。

具体的な社会不安障害の診断基準については、今日では、米国精神医学会の「DSM-Ⅳ」(精神疾患の診断と分類の手引き第4版)を基本にするのが、世界的なスタンダードになっています。

WHO(世界保健機関)の定めた国際疾病分類「ICO-10」という診断基準もありますが「DSM-Ⅳ」のほうが、より広く用いられています。

「DSM-Ⅳ」をベースにした、簡便に社会不安障害の診断ができるマニュアルがあります。

このマニュアルは、精神疾患の専門家だけでなく、ある程度トレーニングを積んだ保健師などでも、面接をしながら、この文面を読み上げてスクリーニング(初期のふるい分け)診断ができることを大きな目的として作られたものです。

具体的には、

1.この一カ月間に、人から見られたり、注目を浴びたりすることに、恐怖やとまどいを感じたことがありますか

2.その恐怖は自分でも常軌を逸していると感じていますか

3.その状況は、さけたり我慢したりしなければならないほど怖いものですか

4.その恐怖により、社会生活が妨げられたり、著しい苦痛を感じたりしていますか

というものです。

4項目すべての答えが「はい」の場合、社会不安障害と診断されます。

簡便でわかりやすく、セルフチェックの参考にもなりますが、これだけで社会不安障害と決めつけないで、確定診断は必ず医療機関で受けて下さい。

この質問項目を、受診するための目安や参考にするとよいでしょう。

社会不安障害のよりくわしい診断と、重症度の判定には、「LSAS」(エルサス)というチェックシートが広く使われています。

米国のコロンビア大学で1987年につくられたもので、「LSAS」とは、考案者の名前を冠した「リービヴィッツ社会不安スケール(Liebowitz Social Anxiety Scale)」の略称です。

日本では、北海道大学精神科によって日本語に訳され、2002年に発表された「LSAS-J」(エルサス―ジェイ)が用いられています。

社会不安障害についての認識が徐々に浸透するなかで「LSAS-J」は臨床に使いやすいこともあって急速に広まりました。

ただし、米国で作られたものなので、なかには日本人の感覚や生活にそぐわない部分もあります。

質問する際、そこについては、社会不安障害の患者さんが答えやすいように補足説明をします。

例えば、項目の23は「パーティーを主催する」となっています。

日本でも、頻繁にパーティーを主催する人や、主催しなければならない立場の人もいるでしょうが、さほど一般的とは思えません。

そこで、患者さんがビジネスマンなら、「まあ飲み会の幹事とでも考えてもらえばいいでしょう。そういう役目が苦手だったり、不安感を抱くかどうか、さけたいと思うかどうかで答えてみてください」というふうに説明します。

お酒を飲まない女性なら、ランチ会や同窓会の主催に置き換えるなど、その人のライフスタイルに合わせて、似た状況を考えてみる必要があるでしょう。

このスコアシートの最もよいところは、評価を「不安」と「回避」に分けてある点です。

社会不安障害の患者さんは、不安感や恐怖感を覚える状況を、大なり小なり回避しながら生活しています。

つらいことや苦しいことは、誰しも可能な範囲でさけたいと思うでしょう。

社会不安障害の患者さんが、不安感や恐怖感を覚える状況をさけるのももっともなことですが、病状の把握のためには、不安感・恐怖感の程度とともに、回避状況もチェックしなければなりません。

回避するほど不安感・恐怖感は減り、そちらのスコアは低くなりますが、その分、一般に、回避による生活や人間関係の制限や支障が増してくるでしょう。

不安感・恐怖感だけのチェックでは、バランスを欠くことになるのです。

実際にいろいろな患者さんに答えてもらうと、不安が強い状況でも、回避しないでなんとかやる人もいれば、軽い不安でも回避する人もいて、社会不安障害の症状の多様性がよくわかります。

回避傾向の強さや問題の大きい生活場面などを知るためにも、「LSAS-J]が役立ちます。

ただし、「DSM-Ⅳ」のマニュアルについても述べたように、セルフチェックだけで社会不安障害と決めつけないで、正しい診断は、必ず医療機関で受けてください。

※参考文献:人の目が怖い「社会不安障害」を治す本 三木治 細谷紀江共著