社会不安障害という病名は、ここ10年ほどで定着してきた比較的新しいものですが、その実態は社交場面で現れる各種の「神経症」として昔から認識されていました。

日本で昔からいわれてきた「対人恐怖症」「赤面恐怖症」「あがり症」などとかなりの部分が重なることもあり、「病気」としての認識はさておき、実態は広く知られてきたわけです。

それらの程度がひどい場合に、医療機関にみえた人に対しては、心理療法を主体としながら、補助的に薬も使われてきました。

この場合の薬は、主に抗不安剤でした。

抗不安剤は、文字通り不安を軽減する薬で、鎮静作用や睡眠作用があり、過度の緊張や不眠に用いられます。

一般的に「精神安定剤」とも呼ばれている薬です。

薬の中でも、副作用や依存性が心配されることが多いようですが、近年は作用のおだやかな「ベンゾジアゼピン系」の抗不安剤が中心に用いられ、通常の臨床で用いる量では、副作用や依存性の心配はありません。

とはいえ、その性質からいって、基本的に抗不安剤は、症状が強いときに頓服(必要に応じて服用すること)的に用いる薬です。

しかし、選択肢がくれしかなかった時代には、人とのかかわりで過度に緊張する患者さんたちに、一定期間、朝晩の服用をすすめることもありました。

すると、人によっては副作用で眠気が起こったり、かえって顔が赤くなったり、そのわりには効果が得られなかったりと、なかなか思うように改善に結びつかないのが正直なところでした。

現在も、社会不安障害の治療に、必要に応じて抗不安剤を用いますが、それはあくまでも補助で、薬物療法の主体はSSRIになっています。

その意味で、同じ薬物療法でも、かつてとはまったく違うものです。

※参考文献:人の目が怖い「社会不安障害」を治す本 三木治 細谷紀江共著