認知行動療法の目的のための具体的な方法には多くの種類があります。

そのなかで、社会不安障害に対してよく用いられるものをあげてみましょう。

[エクスポージャー(曝露療法)]

不安や恐怖を感じる対象・状況・場面に、不安症状がおさまるまであえて身を置く方法です。

そのまま身を置いていても、やがて不安や恐怖がおさまるのを体験することで、「思っていたより大丈夫なんだ」と実感し、マイナスの思考や感情が中和されていくようにすることが目的です。

段階的に不安の程度が増す状況設定をしながらエクスポージャーを繰り返したり、思いきってかなり強い不安対象に曝露したりすることで、社会不安障害の症状をやわらげたり、回避の仕方を少なくしたりしていくことができます。

曝露の強さや時間には、さまざまな設定の方法があります。

たとえば、疑似的にそういった状況をつくって行ったり、治療者が同伴して行ったり、現実に一人でその状況に身を置いたりといういくつかの方法があります。

患者さんと治療者との間の信頼関係を十分に築いたうえで、無理がなくしかも効果的な曝露の仕方を見きわめながら行っていきます。

[ソーシャルスキルトレーニング(社会技術訓練)]

社会不安障害の患者さんが社交場面や人付き合いを苦手とする理由としては、「実際の場での言動や視線に自信がない」「どのようにふるまえばいいかわからない」など、いわば純粋な「スキル」の問題も多くを占めています。

そこで、社交的な場面で、どう振る舞い、人と接すればよいかを練習し、自信が持てるようにします。

[不安対処訓練]

不安感や恐怖感に襲われた時、その場で行える対処法を学びます。

各種のリラクセーション法や呼吸法などが行われます。

[認知修正法]

人とのかかわりにおいて、社会不安障害の患者さんは、実際以上、または必要以上に、「自分はダメだ」「人を不快にさせている」「嫌われている」などと思い込む傾向があります。

この認知(感覚や思考)を、「本当にそうなのか」「実は違うのではないか」「実際にはどうなのか」と、見つめ直し、確認・修正していく方法です。

そのために有効なのは、自分の認知や確認・修正案を書き出すことです。よく知られているのは「三つのカラム法」という方法です。

これは、たとえば「起こった出来事や状況」「自動思考(自動的に浮かんだ思考)とその評価」「評価が悪い(低い)ときの修正案(客観的・合理的な考え方)」といったテーマを決めて書き出していきます。

書き出すことで、実際以上に自己批判や悲観をしている「認知の歪み」、つまり「考え方の悪いクセ」を正すものです。

カラム(コラム)は「欄」の意味で、線を引いて区切った欄に、それぞれの要素を書き出すところから、こう呼ばれています。

さらに、「体の反応」「とった行動」など、要素を加えて「四つのカラム法」や「五つのカラム法」とする場合もあります。

日付 起こった出来事や状況 自動思考 評価 評価が悪いときの修正案
8月14日 勉強会へ行かなければならない 自分が話すときに緊張したらどうしよう。緊張するに違いない × 緊張をすることですべてがダメになるわけではない。緊張しても勉強会に出ることが良い

[三つのカラム法の一例]

これらの方法を、どのように組み合わせてどう行っていくかという治療計画は、あらかじめ、社会不安障害の患者さんの現在の状況や不安を感じる場面、その程度などをじっくり聞いて立てていきます。

この手順を「行動分析」といいます。

その経過

のなかで、必要に応じて「社会不安障害の不安階層表」というものを作成します。

これはその患者さん自身の感じる場面ごとの不安の程度を、数段階で示すものです。
その数字を自覚的障害単位(SUD)と呼びます。

つまり、その人独自の不安度のスコア表のようなものです。

これを参考にしながら、エクスポージャーの場面設定をしたり、各療法の成果を判断したりしていきます。

このような手順でプランを立て、最初は一緒にやりながら方法を覚えてもらい、不都合があれば軌道修正しながら、患者さんのモチベーション(動機付け)を維持していくことなども、すべて認知行動療法に含まれます。

※参考文献:人の目が怖い「社会不安障害」を治す本 三木治 細谷紀江共著