米国国立精神衛生研究所のECA研究により社会不安障害の広範な疫学データが得られました。

このECA研究とは、疾病と障害と精神保健サービスの定義をはっきりさせ、それまでの調査よりも詳しいデータを提出しようとするものです。

Myersらは2地域での6カ月間の社会不安障害の機関有病率を報告しました。

ボルティモアでは男性1.6%、女性12.6%で、セントルイスでは男性0.9%、女性1.5%でした。

その他のECA研究は恐怖症としてのデータを出すだけで社会不安障害と特定していません。

EAC研究で本格的に社会不安障害に取り組んだのはSchneierらでした。

彼らはニューヘブン以外の3カ所からリクルートされた13537人の成人を対象として調査をおこない、361人の社会不安障害(全体で2.7%、男性2%、女性3.1%)を診断しました。

社会不安障害の生涯有病率は若年者に高かったのです。

この研究では統合失調症を除外したので、社会不安障害の診断を受けた者が10%少なくなりました。

社会不安障害を持つものは持たない者とくらべ、収入が少なく、教育程度が低く、独身、別居、離婚状態の者が多かったのです。

白人と黒人間には有病率に差が認められませんでした。

社会不安障害の69%にはうつ病が併発していました。

うつ病を併発していない社会不安障害でも健常者とくらべると自殺念慮をもつ者が多く、経済的に自立している者が少なく、医療を受ける者が多かったが、実際には自殺企図は少なく、専門医の治療を受けている者も少なかったのです。

自殺企図はうつ病併発群では高かく、同じECA研究でも、Bourdonらは他の恐怖症と違って社会不安障害では女性の有病率(2.3%)より男性の有病率(3.2%)のほうが高いと報告しています。

この2つのECA研究の結果の差は、採用された診断基準の違いか、統計学的な調整手順の違いによるものであろうと考えられています。

Schneierらの研究で社会不安障害以外の恐怖所のない者(97名)の発症年齢を調べると、下記図のような分布となり、

ECA研究における社会不安障害の発症年齢
図、ECA研究における社会不安障害の発症年齢

平均発症年齢は15.5歳であり、26歳以後の発症はまれでした。

社会不安障害に併発する精神障害は下記表のような割合であるが、

表、ECA研究における社会不安障害のコモビディティ

コモビディティ率(%) オッズ比
特定の恐怖症 59.0 9.17
広場恐怖 44.9 11.80
アルコール依存症 18.8 2.20
大うつ病 16.6 4.41
薬物乱用 13.0 2.85
気分変調症 12.5 4.30
強迫性障害 11.1 4.36
双極性障害 4.7 4.09
パニック障害 4.7 3.24
身体化障害 1.9 8.02

社会不安障害以外にどのような精神障害ももたないのは31%にすぎませんでした。

併発症をもった患者さんのうち75%の症例はこれら併発症に社会不安障害が先立って発症していました。

社会不安障害の発症が若年であることから社会不安障害は他の精神障害を引き起こす危険性の高い病気であると考えられます。

併発頻度の高い特定の恐怖症と気分変調症を併発する社会不安障害と、その他の精神障害を併発する社会不安障害を分けて考察すると、前者での自殺念慮は9.8%であるのに対して、後者では37.3%と高く、まったく併発症がない社会不安障害は4.6%と最も低かったのです。

自殺企図についてはそれぞれ、0.9%、15.7%、および1.1%であった。

生活保護または障害者年金を受けている者の率は、非併発群で22.3%、併発群で22.5%と対象者の10.6%より高かったのです。

Davidsonらはダーラムにおける一般住民3801人についての疫学調査で、社会不安障害の6カ月期間有病率は2.7%(77名)、生涯有病率は3.8%(123名)であることを報告しました。

この結果がSchneierらのダーラムにおける障害有病率3.2%より高いのは、Davidsonらが統合失調症も含めたからです。

社会不安障害は発症が早期で、回復がまれな障害です。

予後良好の因子は、11歳より後の発症、精神障害の併発がないこと、そして高学歴でした。

不安障害と統合失調症・失調様障害が合併症として多かったのです。

神経症の危険率も高いです。

自殺企図、反社会的行動、思春期の学業成就困難、不健康、受診率増加、就業率低下、社会との接点が貧困、社会的支援を受けにくいといった特徴が認められました。

※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著