ECA研究と同じ診断基準(DIS)を使用し、米国とそれぞれ異なった文化・経済をもつ国々での社会不安障害の有病率を比較することは非常に興味深いです。

西洋諸国にくらべ、台湾や韓国でみられるようにアジアの国のほうが社会不安障害の有病率が低いことは興味深いです。

DIS以外の測定を用いた社会不安障害の疫学研究

FaravelliらはDSM-Ⅲに沿って不安障害を診断するSchedule for Affective Disorders and Schizophrenia-Life Version(SADA-L)を使用し、フローレンスで一般医に登録されている1,110人について社会不安障害の有病率を調査しました。

その結果、社会不安障害の生涯有病率は0.99%、時点有病率は0.45%でした。

この有病率の低さの理由は不明です。

その後、Faravelliらはフローレンス郊外のセストフィオレンティーノという町の住民2500人から無作為に2355名の人を対象とした疫学調査を行いました。

構造化面接法でインタビューがなされ、6.58%に社会不安がありました。

社会不安障害の生涯有病率は3.27%であり、年齢補正すると4%となりました。

男女比は1:2で女性に多かったです。

最も多いのがスピーチ恐怖で89.4%、それについで、他人がいる部屋に入る不安63.1%、知らない人に会うが47.3%でした。

86.9%の人は2つ以上の恐怖状況をもっていました。

DSM-Ⅲの診断基準を完全に満たすようになった平均発症年齢は28.8歳であったが、はじめて症状に気付いた平均年齢は15.5歳でした。

92%の人はその他の精神障害を併発していました。

対象全体での回避性人格障害の割合は3.6%でしたが、社会不安障害では37.9%でその発症危険率は10.5倍も高かったのです。

Pollardらはセントルイスの男性250人、女性250人に4つの恐怖状況について電話によりインタビューしました。

この4つの恐怖状況で、
1.非常に神経質になり、
2.その神経質さは非難や恥に起因し、
3.そのような恐怖状況を可能であれば避ける、または避けようとするか、を基準にして社会不安障害の診断がなされました。

その結果、時点有病率は22.6%となりました。

DSM-Ⅲに記載されている”著名な苦痛を伴う”が条件とされると、時点有病率は2%に下がりました。

各恐怖症状況での有病率をみてみると、
1.公衆の前で話す、または何か行為をする(20.6%)
2.他人の前で書く(2.8%)
3.レストランで食べる(1.2%)
4.公衆トイレを使う(0.2%)でした。

その後、Steinらもカナダのウィニペグにおいて電話インタビューで社会不安障害の有病率を調べました。

その結果、各恐怖症状況での有病率は、
1.公衆の前で話す(31%)
2.知人の小さな集まりで話す(7%)
3.権威ある人に対応する(4%)
4.知らない人に話しかける、または会う(3%)
5.社交的な集まりに出席する(1%)
6.他人の前で書く(1%)
7.他人の前で食べる(1%)

でした。

DSM-Ⅲ-Rを準用したこの研究では診断基準の範囲が広がり、また恐怖状況を多く設定したこともあり、Pollardらの電話インタビュー研究の結果の時点有病率2%より高く、7.1%となりました。

NSCによる社会不安障害研究

これは米国34州172郡の15~54歳の住民8098人を対象とした精神医学的疫学調査です。

その回答率は82.4%でした。

測定はDISをもとにしたComposite International Diagnostic Interview(CIDI)である。

CIDIによる構造化面接による診断はDSM-Ⅲ-Rまたは国際疾病分類第10改訂版(ICD-10)によります。

後に示すような6つの社会不安障害の恐怖状況が調べられました。

この調査によれば米国男性の社会不安障害生涯有病率は11.1%、女性では15.5%であり、全体では13.3%でした。

各状況における苦痛の生涯有病率は
1.公衆の前で話す(30.2%)
2.小グループで話す(15.2%)
3.用がないのに人に話しかける(13.7%)
4.外出先でトイレを使う(6.6%)
5.誰かが見ている前で書く(6.4%)
6.公衆の前で食べたり飲む(2.7%)

であり、何らかの社会的状況における苦痛をもつ割合は38.6%でした。

何らかのスピーチに対する苦痛を感じる者は17.8%おり、その中の35.8%が社会不安障害と診断されたが、スピーチ以外の状況で苦痛を感じる者20.9%のうち社会不安障害と診断できる割合は64.0%でした。

このことはスピーチに苦痛を感じる人の病理性は低いことを示しています。

ドイツにおいてもCIDIを使用して14~24歳までの思春期・青年期の人々3021人を対象にした疫学調査が行われました。

その結果、社会不安障害の生涯有病率は女性9.5%、男性4.9%でした。

その三分の一は全般型でした。

※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著