社会不安障害がどのくらい重症であることが必要か
社会不安障害は重篤であり患者自身では治療がおこなえず公的医療保険を適用できる疾患であるとしましょう。
次の問題は診断と重症度の判断です。
社会不安障害の診断基準には患者本人の意向が大きく関与しています。
精神障害の分類と診断の手引き第4版(DSM-Ⅳ)では、クライテリオンCにて「その人は、恐怖が過剰であること、または不合理であることを認識している」と記載されています。
社会場面での不安や緊張のために日常生活が限定的であっても、本人がそのことについて不合理を感じないならば、社会不安障害ではありません。
逆に軽症で普通の生活をしていても本人が不合理と感じ、治療を受けたいと感じるならば社会不安障害です。
統合失調症やうつ病、躁病などであれば、本人の不合理感や治療についての必要性の認識は、診断には不要です。
診断は精神科医が判断でき、本人の主観は入りません。
一方、社会不安障害は本人の主観そのものが診断の重要な一部です。
誰が社会不安障害であり、治療を受けるべきかについては本人の判断によることになります。
このような病気の治療費用について社会全体で負担することについて、統合失調症などの場合と同じように考えることは難しいです。
社会不安障害の治療コストを誰が払うべきか
治療費用を本人が負担するという方法もあります。
こちらの社会不安障害の2症例とも、医療保険の有無は治療を受けるかどうかの判断にはならなかった。
たとえ、全額自費でも払える範囲の金額なら払ったでしょう。
心情的には、症例1は支払い能力がかぎられており、日常生活の在り方が常識的な生活の範囲を超えているので、障害者認定を受けてもよいぐらいかと考えられます。
しかし症例2については、同様に考える方はいないだろう。
はっきりと薬剤の効果があったが、もともと生活の障害が少ないことから、「生活機能改善」を果たしたとみることもできます。
つまり、バイアグラと同等の扱いで、健康保険を適用しないという考え方もあり得ます。
一方で症例2が、自営の会社経営が順調になり、小さな集団ではあるが従業員や家族などへの社会経済的な波及効果を考えれば治療薬が保険から支払われた対価としては十分社会に還元したといえるかもしれません。
社会不安障害は、バイアグラや歯列矯正のような個人的な価値観と効果に限局されるものと、当然保険診療で賄われるべきとされる疾患とのあいだに位置する疾患であるといえます。
これまでの議論をまとめても結論がつきません。
しかし、どちらかを選択しなければならない時代はもう近いです。
これから全般性不安障害などの新しい疾患が登場してくる。
社会不安障害よりもさらに判断が難しくなります。
本サイトがこうした問題について考える材料になれば幸いです。
※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著