社会不安障害の患者さんはとくに成人例では単身で精神科を受診することが多く、ことに重症例を除いた場合には、よりその傾向が顕著になるようである。
これは統合失調症の患者さんや感情障害の患者さん、さらには他の神経症圏の障害とくらべても着目すべき差異かもしれません。
この違いは、まさに「性格の問題」と考えて家族にも知られずに何とか克服したいと願いながら、ますます孤立を深めてしまうという社会不安障害の患者さんの心性を如実に表わしているように考えられます。
そしてまた、このことは治療者が患者家族の協力や理解を得るための機会をつかみにくいという問題にもつながります。
本人の訴えを性格の問題と考える傾向は家族にも強く、さらに「精神科の病気などではない」と否認したい心理もはたらいて、本人以上に治療への導入に不賛成の意思を示す家族も少なくありません。
こういった心性には「育て方のせいではないか」「これまでの対処が誤っていたのではないか」といった、近親者であるがゆえに抱きやすい罪責感も影響していることがしばしばであり、これは他の精神疾患でも広く認められることである。
したがって家族へ説明する場合には、本人への説明の内容に加え、家族の罪責感にも十分に配慮した態度とあわせておこなう工夫が望まれます。
患者さんの立場に立ったとき、同居の有無にかかわらず家族を味方につけることに成功するかどうかは、その後の治療の成否に大きくかかわる課題であります。
患者の苦悩に共感するあまり、家族が、非難されたと受け取るような態度はくれぐれも慎まねばならないことを、失敗例も含めて実感するところです。
以上、心理教育的な態度を中心として社会不安障害の患者さんとその家族に対しておこなう説明のポイントと思われる点を、医師が日頃の臨床で学んだことから述べました。
この章の最後に森田療法の立場から患者さんに伝えるべき病態の説明を少ししたいと思います。
伝統ある森田療法には患者への教示内容に独自の工夫が多く積み重ねられているし、近年の森田療法の一つとして家族の役割に焦点を当てた介入が加味されつつあることも、ここで述べた心理教育的態度とは、患者さんやご家族のempowermentを図るという意味で共通する点があるといえなくもありません。
ここで述べたのは一般的な外来診療で有用と思われる説明のポイントであるが、その場合でも森田療法から学ぶべき点は少なくありません。
いずれにしても、治療者の立脚する専門性を問わず現代の精神科医療はインフォームド・コンセントに視点をおいたスタンダードな情報提供が求められています。
その意味においても心理教育的な手法は一定の評価を得ていると思われ、社会不安障害についても心理教育の理念にもとづいたアプローチが活用されることをきたいしてやみません。
※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著