「はじめに」で述べたように、わが国ではまだ社会不安障害の治療アルゴリズムは手がけられていないので、ここではデューク大学のDavidsonらが作成したアルゴリズムを紹介します。

Davidsonらは社会不安障害を非全般性、全般性でコモビディティを伴わない社会不安障害、伴う社会不安障害に分けてアルゴリズムを作成しているので、これに則して紹介します。

1.非全般性(コモビディティを伴わない)社会不安障害の治療アルゴリズム

非全般性でコモビディティを伴わない場合には認知行動療法を中心とする非薬物療法が第一選択になります。

ほかに社会生活技能訓練やリラクゼーション、曝露療法などがあるが、このなかでは認知行動療法が最も効果的といわれています。

認知行動療法にβ遮断薬の併用が加わっているが、β遮断薬については、社会不安障害に対する治療効果という意味ではエビデンスがないといわざるを得ません。

ただ、ミュージシャンの自律神経症状(振戦、発汗、赤面)を抑えることが、更なる社会不安障害の症状悪化を食い止めるという考え方があってアルゴリズムに加えられていると思われます。

β遮断薬で効果が得られない場合には、ベンゾジアゼピンを使用します。

ベンゾジアゼピンは基本的には持続して用いるのではなく、短期間の使用にとどめるべきです。

以上の方法で効果が得られない場合には3で述べるコモビディティを伴う社会不安障害の治療アルゴリズムにしたがって治療をおこないます。

2.全般性(コモビディティを伴わない)社会不安障害

クロナゼパム

一週目から何らかの効果が現れるが、2~10週にかけてプラセボに比較して有意な改善が得られます。

平均投与量は2.4mgです。

さらに投与量を平均4.8mg用いた試験では8週で最大の効果が得られるが、さらに16週まで改善がみられるといわれます。

3.全般性(コモビディティを伴う)社会不安障害

このタイプが最もよくみられるものです。

コモビッドする障害には回避性人格障害と全般性不安障害のほかにアルコール依存症、うつ病、パニック障害が多くみられます。

これには、SSRIが第一選択薬です。

RIMAもここに位置付けられているが、日本では市販されていないので言及は避けます。

SSRIの投与量はパニック障害あるいは心的外傷後ストレス障害のコモビディティがないかぎり、標準的初期投与量で開始します。

パニック障害あるいはPTSDが併存する場合には初期投与量を半量から開始します。

その理由は初期の副作用がパニック障害やPTSDで出現しやすいからです。

最低8週間投与して効果が無い、あるいは部分的改善しかみられない場合にはオーグメンテーションとしてベンゾジアゼピンあるいはタンドスピロンあるいはβ遮断薬を追加する、ないしは部分効果がある場合に認知行動療法を併用します。

タンドスピロンは単独では効果はみられません。

以上で効果がない場合にはMAOIの投与とされているが、これも日本では市販されていません。

この他、やはりわが国では市販されていない、あるいは適応がない薬剤としてvenlafaxine(抗うつ剤として治験中、社会不安障害の適応取得については情報なし)、nefazodone(治験中止)、gabapentin、tranylcypromineなどがあります。


疫学調査によると、社会不安障害はうつ病、アルコール依存症についで有病率の高い疾患とされます。

しかし、その割には臨床現場でさほど多くの患者が受診するという実感はありませんでした。

おそらく、社会不安障害が治療の対象となる病気という認識が得られず、性格、癖のレベルでとらえられてきたことも関係しているのでしょう。

また、社会不安障害は心理的な問題であり、薬物療法の対象とは理解されにくいこともあったのではないでしょうか。

最近、日本で社会不安障害を対象にしたSSRIの治験がおこなわれ、新聞広告でリクルートされたが、あっという間に患者が集まりました。

それだけ潜在的患者が存在することが証明されたわけです。

近々、日本にも社会不安障害の適応をもつ薬物が増えていくことでしょう。

適応症をもった薬物の登場が一般の人々に、社会不安障害が薬物療法の対象であり、治る病気であることを認識してもらうのに大きな役割を果たすことが期待されます。

近い将来、日本でも社会不安障害の薬物療法のアルゴリズムが作成されるでしょう。

※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著