社会不安障害の治療研究にQOLの転帰を含めることは有意義なことであるが、パニック障害などの場合にくらべて変化の程度はわずかであり、しかみQOLの転帰の測定は困難であるとの意見もあります。

現在、いくつかの薬物が社会不安障害の患者さんの能力障害を改善することが報告されています。

クロナゼパム、フルボキサミン、パロキセチンの治療研究のうち能力障害への効果に言及した研究を紹介します。

Steinらは12週間の多施設無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、DSM-Ⅳの社会不安障害の患者さん92人(91.3%は全般性)に対するフルボキサミンの効果を調べました。

フルボキサミン群42人、プラセボ群44人の計86人が試験を完了しました。

全般改善度で改善と著明改善を有効とすると、フルボキサミンでは18人(42.9%)が有効で、プラセボでの10人(22.7%)より有意に多かったです。

SDSは、仕事はプラセボでは4.06から4.38と悪化したのに対し、フルボキサミンでは5.24から3.41へとプラセボより有意に改善しました。

社交ではプラセボでは6.09から6.00とほとんど変化しなかったが、フルボキサミンでは6.00から4.53へと改善傾向をみました。

家族ではプラセボでは3.09から3.76へと悪化したが、フルボキサミンでは3.59から2.59へとプラセボより有意に改善しました。

Manciniらは、DSM-Ⅲ-Rの全般性社会不安障害18人を対象にパロキセチンのオープン試験を12週間おこないました。

全員が8週間を完了し、15人(83.3%)に効果があり、中等度から著明に改善しました。

服用量は20~60mgで、平均36.1mgでした。

SDSの仕事は4.2から1.9へ、社交は8.1から4.1へ有意に改善し、家族では3.3から1.9へと改善傾向をみました。

Steinらは、全般性社会不安障害に対するパロキセチンの効果を12週間の多施設無作為化二重盲検プラセボ対照試験で検討しました。

パロキセチン群の91人中50人(55.0%)が、プラセボ群では92人中22人(23.9%)が、全般改善度で改善、著明改善と判断されました。

社会不安障害の症状評価尺度のLSASの得点は、パロキセチン群は39.1%減少したが、プラセボ群では17.4%の減少にすぎませんでした。

SDSでみると、パロキセチンでは仕事が4.8から3.4へ、社交が6.9から4.2へ、家族では3.2から2.2へ改善し、プラセボではそれぞれ5.1から4.4,6.9から5.5、そして3.1から2.5へと改善しました。

仕事と社交におけるプラセボとの差は有意であったが、家族では有意でなかったです。

Baldwinらは、12週間の多施設無作為化二重盲検プラセボ対照試験でパロキセチンの社会不安障害に対する効果を検討しました。

パロキセチン139人、プラセボ151人の結果を解析できました。

試験開始時のLSASは、パロキセチンが87.6、プラセボは86.1で差はないが、治療後の減少はパロキセチンが29.4でプラセボの15.6より有意に多かったです。

治験開始時のSDS得点は仕事ではパロキセチンが6.5、プラセボが6.3で、家族はそれぞれ4.6と4.1、社交はそれぞれ7.6と7.4とほぼ同じでした。

治療終了時にはいずれの領域でも、パロキセチンのほうがプラセボより有意に改善しました。

Liebowitzらは、DSM-Ⅳの全般性社会不安障害を対象に固定用量のパロキセチンについて多施設無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行いました。

用量は20mgが97人、40mgが95人、60mgが97人で、プラセボが95人でした。

LSASは20mg群でプラセボより有意に減少し、全般改善度からみた有効率は40mg群がプラセボより有意に高かったです。

SDSはいずれの用量でも改善したが、とくに社交は20mg群で7.1から4.4へ、60mg群で6.6から4.2へとプラセボより有意に改善しました。

Allgulanderは治療歴のない全般性社会不安障害に対するパロキセチンの治療効果を12週間の無作為化二重盲検プラセボ対照試験で検討しました。

パロキセチンは44人、プラセボが48人でした。

全般改善度からみると改善および著明改善は4週目からパロキセチン群に有意に多くなり、12週で有効例は、プラセボ群の4人(8.3%)にくらべてパロキセチン群では31人(70.5%)と有意に多かったです。

LSASの総得点はパロキセチン群で―33.4とプラセボ群の―8.6より有意に改善しました。

Sheehan Disability Inventory(SDI)は、パロキセチン群で仕事は26.7、社交は29.3、家族は10.1改善しました。

これに対してプラセボ群ではそれぞれ5.2、11.4の改善と2.3の悪化をみました。

両群の差はいずれも有意であり、仕事と家族は8週から、社交は12週から有意に改善しました。

Steinらは、多施設プラセボ対照試験で、12週間の単盲検試験につづき、24週間の二重盲検試験に続き、24週間の二重盲検試験をおこないました。

パロキセチン162人、プラセボ161人が長期維持療法に移行し、それぞれ136人と121人が治験を完了しました。

再燃率はプラセボの39%にくらべ、パロキセチンでは14%と少なく、全般改善度はパロキセチンは78%が改善し、プラセボの51%より有意に多かったです。

SDSの合計は、開始時は17.1でした。

維持療法期にパロキセチンは12週が7.6、36週では―0.5とほとんど変化がなかったが、プラセボでは12週の7.6から、36週で3.5と有意に悪化しました。

パロキセチンによる改善が維持されることが示されました。

Sutherlandらはクロナゼパムで治療を受けた社会不安障害の患者さん75人のうち、56人について2年後の経過を調べました。

全体として急性期治療の効果が維持されていました。

SDSについては、開始時から終了時に、仕事は5.7から3.5、社交は6.5から3.9、家族は3.9から2.8へ改善し、2年後はそれぞれ3.2,3.9,2.6と効果が維持されていました。

治療によるQOLの向上

これまで精神障害の治療研究は症状の軽減に焦点を当ててきました。

生活の満足度の増進が強調されることはまれであった。

臨床家は診断と症状にもとづいて転帰を判定するが、患者さんは主観的な良好感・QOLにもとづいて転帰を判定します。

精神障害が患者さんに及ぼす悪影響を、患者さんの全般的なQOLを無視して、症状の苦痛だけにもとづいて判定するのでは不完全です。

治療転帰の判定にQOLを含めるべきでしょう。

Safrenらは、ニューヨーク州のアルバニー大学病院のストレス・不安障害センターを受診し集団認知行動療法を受けた社会不安障害の患者さんのQOLを調べました。

対象は男性18人、女性26人の合計44人で、平均年齢は35.8±10.4歳、DSM-Ⅲ-RあるいはDSM-Ⅳの基準を満たしていました。

共存障害のある例は除きました。QOLの測定にはQOLIを用いました。

これは生活のいろいろな領域における満足感の自己評価であり、健康、対人関係、自尊心、仕事などの領域17項目からなります。

少しも重要でない(0)、非常に重要(2)、あるいは非常に不満足(-3)、~非常に満足(+3)に評価する。

社会不安障害の患者さんのQOLIは-3.65~3.76の範囲に及び、平均は0.79でした。

この値はFrischの一般成人集団での値2.66より有意に低いです。

全般性社会不安障害のほうが限局型社会不安障害よりQOLIの評価が低かったです。

未婚の人(0.32)のほうが結婚している人(1.97)よりQOLIが低かったです。

また、QOLIは社交的交流時の不安、機能障害、抑うつなどいろいろな項目の重症度と逆相関を示しました。

32人が集団認知行動療法を完了し、14人で有効でした。

QOLI得点は治療前の0.24から治療後は1.05と有意に高くなりました。

しかし、改善したとはいいながらもFrischの一般成人集団での値よりは低いままでした。

また、症状の改善の乏しい人でもQOLが上昇することがありました。

社会不安障害で著しく低下しているQOLに対する治療の影響については、新薬治験時の短期間の観察以外は研究が乏しいです。

QOLの向上は症状の改善に引き続き生じることが予想されることから、長期にわたる観察が必要でしょう。

Naturalistic研究が求められるところです。

※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著