ICD-10とDSM-Ⅳの社会恐怖または社会不安障害の診断基準概要を表1に示します。

ICD-10診断指針

a:心理、行動、自律神経系症状は不安の一次性症状であり、妄想や強迫思考の二次性症状ではない

b:不安は社会的状況に限定されているか、おもにその状況において生じること

c:恐怖状況の回避が顕著な特徴として認められること

DSM-Ⅳ診断基準

A:社交場面や何らかのパフォーマンスをおこなう場面で見知らぬ人や細かい観察にさらされることを顕著に恐怖し、面目を無くしたり当惑する。

B:そのような苦手な状況にさらされると、状況依存性の不安が惹起される。

C:恐怖は耐え難く常軌を逸したもの

D:その苦手な状況は回避されるか、持続的に不安や苦痛を引き起こす。

E:その状況の回避、予期不安、苦痛のために日常生活、仕事(学業)、社交は阻害されるか、恐怖症による顕著な苦痛がある。

F:18歳以下の場合は6カ月以上の持続

G・H:恐怖や回避が物質、身体疾患、他の精神疾患によるものではないこと。
身体疾患や他の精神疾患を有するときはAがその疾患の症状ではないこと。

<特定>ほとんどの社会状況で恐怖が生じるときは「全般性」と特定すること。

表1.社会不安障害の診断基準

ICD-10には生活機能障害(DSM-ⅣのE)基準が入っていない。

ほかは、概略同じである。

ICD-10を基礎に開発された操作診断基準である研究用診断基準(ICD-10DCR)では、恐怖状況で生じる不安症状の基準が設けられており、1.赤面か震え、2.嘔吐恐怖、3.排尿・排泄の切迫感や恐怖のうち、診断時点で2つ以上、発症から一定期間少なくとも1つ存在すること、という内容です。

この基準はDSM-Ⅳにはありません。

さらに恐怖症状や回避によって惹起される苦痛の程度はDSM-Ⅳと同じく耐え難く常軌を逸したものであるとの重症度の定義が設けられています。

この2つの項目はICD-10DCR基準を狭くすると考えられるが、これは研究用診断基準としてなるべく均質な対象を選択することを意図したものでしょう。

鑑別診断はなかなか困難な場合があります。

社会恐怖と、とくに広場恐怖を伴うPDとの鑑別においては、状況恐怖・不安があるか否かのみが鑑別点になります。

この場合、ICD-10では鑑別が困難な広場恐怖と社会恐怖では広場恐怖を優先するという診断カテゴリーのヒエラルキーが設けられています。

したがってICD-10のPD(F41.0)のカテゴリーは広場恐怖を伴うことなく、ICD-10ではPDといえば、もっぱら予期できない、状況に依存しないパニック発作が反復し予期不安に症状が限定されるものにかぎられます。

そのようなパニック発作が存在しても状況不安症状が存在すれば、ICD-10では社会恐怖診断が優先されます。

一方DSM-Ⅳではそのような診断優先権は設定されていない(コモビディティによる処理を広範に認めている)ので、広範な状況回避を伴う社会不安障害の患者さんに、後に状況性でないパニック発作が発生した場合、社会不安障害と広場恐怖を伴うPDの重複診断がなされることになります。

広場恐怖の回避と社会不安障害の回避の違いについては、後者は他者からの評価や批判に重点があるが前者には重点がありません。

また信頼できる同伴者が一緒にいるか否かによって広場恐怖における恐怖の程度に大きな違いが生じるが、社会不安障害においては大きな差はありません。

その他、小児については分離不安障害との鑑別(家庭から離れる不安か特定の状況に入る不安か)、成人の場合、回避性パーソナリティ障害との合併、臨床例レベルに至らない行為に伴う不安、舞台あがり症、恥ずかしがりは、その程度が臨床的に顕著な障害と苦痛を伴うものでなければ社会不安障害とは診断しません。

うつ病相のみに生じる不安であれば社会不安障害と診断しません。

しかし、ICD-10も完全なうつ病症状が存在する場合にうつ病との重複診断を排除してはいません(臨床の目的によるが、主診断を決めることが望ましい)。

※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著