社会不安障害の臨床症状評価尺度として開発されたものではないが、一般的な対人場面での社会的不安の自己記入式評価尺度としてはFear of Negative Evaluation Scale(FNE)とSocial Avoidance and Distress Scale(SADS)が使用されることが多いです。

これらは日本語版においても信頼性と妥当性の検討がなされ確認されています。

FNEは他者からの否定的な評価に対する不安の測定を目的とした尺度で30項目からなり、2件法で採点されます。

SADSは社会的場面において体験される不安感と社会的場面からの回避行動を測定する尺度で28項目からなり、2件法で採点されます。

社会不安障害の評価者が臨床症状を評価する尺度としては、Brief Social Phobia Scale(BSPS)とLSASが使用されることが多いです。

BSPSは恐怖症状、回避行動に加え赤面、動悸、震え、発汗の生理的症状についても評価するように作成されています。

恐怖症状および回避行動の評価については7項目の状況(人前で話をする、権威ある人に話しかける、初対面の人に話しかける、恥かしい思いをする、批判される、社交的な集まりに参加する、人に見られている状況で何かをする)について、0~4の5段階で評価されます。

また、生理的症状についても0~4の5段階で評価されます。

BSPSについての評価尺度としての検討では、生理的症状尺度については内的整合性が十分ではなく、恐怖症状尺度と回避行動尺度との相関に乏しいことが指摘されています。

このため、治療反応性の評価には恐怖症状尺度と回避行動尺度のみ使用したほうがよいとの指摘もあります。

恐怖症状および回避行動の評価は7項目についてのみであり簡便ではあるが、やや少ないものとなっています。

BSPSについては日本語版の信頼性と妥当性の検討はおこなわれていません。

一方、LSASは社会不安障害の臨床症状や薬物療法、精神療法の治療反応性を評価する尺度として広く使用され、原語である英語版のほか、フランス語版およびスペイン語版においてもその信頼性と妥当性が検討され確認されています。

また、International Consensus Group on Depression and Anxietyの検討においても、社会不安障害の臨床症状を評価者が評価する尺度としてLSASはゴールドスタンダードとされています。

LSASによる社会不安障害の臨床評価

LSASは、社会不安障害の患者さんが症状を呈することが多い行為状況(13項目)、社交状況(11項目)の24項目からなり、それぞれの項目に対して恐怖感/不安感と回避行動の程度を0~3の4段階で評価します。

DSM-Ⅲにおいて社会不安障害の診断基準が示されたときに重点が置かれていた、人前で話をしたり、会食をしたり、公衆トイレを使用したりするような行為状況のみならず、注目を浴びたり、他人の意見に賛成できないことを表明したり、人と目をあわせたりするなどの社交状況についても評価するように作成されており、症状出現状況として行為状況に偏らない評価尺度となっています。

これによって、LSASでは6つの下位評価がおこなわれることとなります。

すなわち、恐怖感/不安感合計得点、行為状況恐怖感/不安感得点、社交状況恐怖感/不安感得点、回避合計得点、行為状況回避得点、社交状況回避得点です。

LSASの総得点は0~144になるが、全般性の社会不安障害では50以上となることが多く、95~100以上になると働くことができない、学校に行けないなど社会的機能を果たすことができなくなり、活動能力がきわめて低下した状態に陥っているとされています。

LSASの評価は過去一週間の症状を評価するものとされ、項目にあたる状況を経験していなかった場合は、そのような状況におかれた場合を想像して回答してもらい評価することとなります。

治療反応性の検討をおこなう場合は、項目ごとに想定されている状況を一定にすることに注意が必要です。

たとえば「人に姿を見られながら仕事(勉強)する」の項目であれば、社長や友人にみられながら仕事をすることはまれであり、一般的に直属の上司の下で仕事をすることが多いと考えられる人であれば、治療経過を通して、一貫して上司の見ている状況で仕事をしているときの症状を評価することにします。

また、恐怖感/不安感の得点がないにもかかわらず、回避行動がみられる場合は、なぜ回避するのか質問する必要があります。

たとえば、汚いから、病原菌がつくから公共のトイレを使用しないという理由であれば、社会不安によるものではないのでLSASでは回避得点とはしません。

このようにLSASの評価にあたっては、評価者が評価項目で想定されている状況を一定にし、回避行動が社会不安にもとづくものか確認しながら施行する必要があります。

社会不安障害は若年で発症することが多く、その後、うつ病やアルコール依存などの他の精神障害を併発することが知られるようになり、社会不安障害に対する早期の介入がその後に併発してくる精神障害を予防できるかどうかという点にも関心がもたれています。

このため、最近になり児童青年期版のLSAS(Liebowitz Social Anxiety Scale for Children and Adolescents:LSAS-CA)が開発され、その信頼性と妥当性も検討されています。

LSAS日本語版について

日本の社会不安障害の患者さんについて検討することを目的として、研究者達は再翻訳の手続きを経てLSAS日本語版(LSAS-J)を作成し、疾患群30例、健常対象群60例を対象として、その信頼性と妥当性を検討してみました。

疾患群における全項目のCronbachのα係数は0.95を示し、内的整合性は保たれていると考えられました。

健常対照群において2週間の間隔をおいて2回施行した場合の全項目の級内相関係数(intraclass correlation coefficient)は0.92を示し、再テスト信頼性も高いと考えられました。

また、LSAS-Jは社会不安の自己記入式評価尺度であるSADS日本語版と相関を示し(R=0.64,p=0.0002)、診察医が軽症、中等症、重症の3段階に判定した臨床的重症度とも相関を示しました(R=0.73,p=0.0001)。

また、ROC曲線を作成しカットオフ値を求めたところ42(感度86.7%、特異度86.7%)でした。

これらのことから、日本の社会不安障害の患者さんの臨床症状の評価および治療反応性の評価についてもLSAS-Jが使用可能であると考えられました。

LSAS-Jは、日本においてはじめて実施された、社会不安障害に対する薬物療法の有効性に関する検討に使用されました。

この全国54施設における265例を対象としたフルボキサミンによるプラセボ対照二重盲検試験では、欧米における報告同様にフルボキサミン群はプラセボ群に対し有意なLSAS-J得点の減少が認められ、社会不安障害に対する有効性が確認されました。

今後、社会不安障害において更なる薬物療法や精神療法に対する有効性の検討、欧米の症例との比較検討にLSAS-Jによる臨床評価が使用されていくものと考えられます。

社会不安障害の診断と評価について概観してみました。

社会不安障害についての研究が進むにつれ、DSMにおいてもより病態の輪郭が明らかとなり、かつ全般性の症例、子どもの症例を含め広い範囲を含むものとなってきています。

社会不安障害の臨床症状評価尺度としてLSAS-Jが使用可能であることが確認されたことにより、今後、日本の社会不安障害の患者さんについても国際比較をすることが可能となり、文化結合症候群として記載されることが多かった日本の対人恐怖症と社会不安障害の関係を明らかにしていくうえでも有用と考えられました。

※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著