社会不安障害の薬物治療アルゴリズムは、まだ日本では作成されていません。
そこで、ここでははじめに社会不安障害の薬物治療に関するエビデンスを整理したうえで、米国のDavidsonの提唱しているアルゴリズムを紹介することで、ここでの目的を果たすことにさせていただきます。
これまでに社会不安障害を対象に検討された薬物は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、可逆的モノアミン酸化酵素A阻害薬(RIMA)、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)、ベンゾジアゼピン系抗不安薬などです。
そのほとんどはプラセボ対照の二重盲検比較試験です。
実薬対照の試験が少ないのは、社会不安障害の適応を有する薬剤でスタンダードになるものがまだないことが理由です。
社会不安障害の薬物療法に関するEBM
1.選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
日本では、いまのところまだ社会不安障害の適応をもつSSRIは存在しません。
現在、治療が終了ないしは進行中のものが2種類あるが、承認されるかどうか、その時期などは不明です。
ここでは海外での適応取得状況と臨床試験の成績を紹介します。
A.パロキセチン
SSRIのなかで最も広範に検討が加えられているのがパロキセチンです。
米国で最初におこなわれたプラセボ対照のflexible doseによる11週間の比較試験(二重盲検)の結果は、183例のITT解析で、パロキセチンの反応率55.0%に対してプラセボは23.9%であり、Liebowitz Social Anxiety Scale(LSAS)の減少もパロキセチンが30.5ポイントに対して、プラセボは14.5ポイントでありました。
第2のflexible doseによるプラセボ対照二重盲検比較試験はヨーロッパと南アフリカでおこなわれたものでありますが、パロキセチンの用量は20~50mg/日であり12週間の試験でありました。
パロキセチンの反応率は66%であるのに対してプラセボは33%と有意差がみられました。
LSASの変化はパロキセチンが29.4ポイントに対してプラセボは13.8ポイントであり、4週目からプラセボとの有意差がみられ、その後さらにこの差は大きくなっていきました。
B.フルボキサミン
2つの二重盲検比較試験が報告されています。
フルボキサミン150mg/日、12週間の試験の結果はフルボキサミンに反応したものが46%に対して、プラセボに反応したものは7%でありました。Steinらは92列を対象に二重盲検比較試験をおこなったが、平均投与量は202mgでありました。
フルボキサミンに対する反応率が43%であったのに対してプラセボ反応率は23%でありました。
LSASの減少はフルボキサミンで22ポイント、プラセボで7.8ポイントであり、両群の差は14.2ポイントと有意な差でした。
C.Sertraline
sertralineの場合も2つの試験成績が報告されています。
その一つは少数例のクロスオーバー試験であり、プラセボではLSASに変化はなかったが、平均134mg/日のsertralineで有意な減少がみられました。
他の一つは大規模研究で204例を対象に20週に及ぶプラセボ対照の比較試験がおこなわれ、sertralineの用量は50~200mg/日でした。
結果は反応率53%対29%でsertralineがプラセボにまさりました。
2.可逆的モノアミン酸化酵素A阻害薬(RIMA)
日本での開発は中断し、いまのところ市販される可能性はありません。
RIMAの社会不安障害に対する効果に関しては、必ずしも一定の結果は得られていません。
プラセボにくらべてmoclobemideがまさるとする報告がある一方で、プラセボとのあいだに差がありません、あるいはわずかな差しかないという報告もあります。
メタ解析の結果では、effect sizeはSSRIよりも小さいことが報告されています。
3.モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)
phenelzineはプラセボ、アテノロール、moclobemideにくらべて有意に効果がまさるとする報告が多いが、副作用の点ではmoclobemideに劣ります。
4.ベンゾジアゼピン系抗不安薬
クロナゼパム(クロナゼパム78%、プラセボ20%)、ブロマゼパム(ブロマゼパム83%、プラセボ20%)の有効性は明らかである。
また、アルプラゾラムについても有効とする報告があります。
5.β遮断薬
日本での使用実態は明らかではないが、欧米では社会不安障害に対して広範に使用されています。
しかし、アテノロールがプラセボにまさるとするエビデンスはなく、否定的であります。
以上のように社会不安障害の薬物治療におけるSSRIの役割は確認され、かつ他の薬剤にくらべて副作用が少なく、安全性にすぐれていることから第一選択薬の位置を占めています。
さらにSSRIに有利な点は、SSRIが他の不安障害やうつ病の適応をもっており、社会不安障害にコモビッドすることの多い他の不安障害あるいはうつ病治療が同時に行える点です。
MAOIはphenelzineを中心に米国では社会不安障害の治療に用いられてきたが、副作用のために使いにくく、あくまでも第二選択の薬としての位置づけです。
むしろ、最近ではRIMAに置き換わりつつあるといってもよいです。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用は、国内では、まだまだ人気で、その即効性に重きを置いています。
しかし、米国では、依存性の問題もあり、その使用は限定的です。
※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著