社会不安障害のサブタイプと治療、とくに薬物療法の意義

社会不安障害の症状の中核は他人から見られている状況での行為や、他人とのかかわりにおける持続的かつ過度の不安恐怖と、それに対する回避行動であります。

本人もこうした恐怖が過度で非合理的なものであることを自覚しています。

現在、精神疾患の診断にはAPAによるDSM-Ⅳと、世界保健機関(WHO)による国際疾病分類第10改訂版(ICD-10)が用いられています。

DSMーⅣとICD-10では若干の違いが認められます。

ICD-10では大勢の前での話に対する恐怖は正常とみなし、少人数のものに限定しています。

また赤面や嘔気、尿意頻数などの特定の身体症状を重視しています。

また強い恐怖場面では症状がパニック発作の形をとることも記載されています。

現時点では診断基準が明確なDSM-Ⅳが研究や臨床試験ではおもに用いられています。

社会不安障害の主な評価尺度としては、症状評価にはLiebowitz Social Anxiety Scale(LSAS)が、日常生活機能評価にはSheehan Disability Scaleがあり、LSASは日本語版が作成され、その妥当性も検証されています。

不安恐怖を抱く状況が社会生活全般にわたっている場合を全般性のサブタイプと診断するが、社会不安障害の7割以上は全般性と推定されます。

全般性と非全般性の境界は必ずしも明確ではないが、薬物療法を含めた積極的治療の対象となるのは全般性であり、SSRIの臨床試験も全般性のサブタイプを対象に行われています。

発症年齢が早い重症例では、自己評価が過度に低く対人交流を避ける人格発達の障害である回避性人格障害と社会不安障害の診断を2つつけてよいことになっています。

この辺がわかりにくいが両者の違いはかなり人為的なものであり、今後診断基準の改訂に伴って検討がおこなわれるものと思われるが、臨床的には早期発症で回避性人格障害を伴う例でも薬物療法が奏功する場合があります。

社会不安障害が社会生活に与える影響と積極的な治療の必要性

社会不安障害の場合、内気とは異なり、本人の体験する苦痛が非常に強く、不安や恐怖が過度で非合理的であることを認識しています。

人に紹介される、目上の人に会う、異性と会話をする、デートをする、人前で電話をする、来客と応対する、人に見られているところで字を書く、タイプする、話をするなどほとんどの場面で不安が惹起される。

また広場恐怖ではスーパーや商店街に行くこと自体が恐怖であるのに対して、社会不安障害では小さなお店でものを買うことや、買いたいものを店員に伝えることが恐怖となります。

社会不安障害は慢性の疾患で自然寛解しにくいのが特徴で、平均罹病期間は20年です。

発症が遅く高学歴ほど回復しやすいです。

患者の半数以上が学業や仕事、社会生活などの面において著しい支障をきたし、80%がうつ病やアルコール依存症を合併してきます。

本人、周囲とも単なる性格の問題と考え、受診率、認知率が非常に低いです。

米国での推定未治療患者数は240万にものぼると推定されていますが、そのうち5%以下しか専門的治療を受けていません。

若年発症例では教育歴が短く、独身者が多く、就労率が低いことも指摘されています。

社会不安障害の生物学的基盤と治療による変化

社会不安障害の病因は不明であるが何らかの生物学的基盤を背景に出現することが推定されています。

時にパニック発作の形をとる場合もあることから、脳幹の窒息警報の化学受容体の感受性が検討されているが、パニック障害と健常者の中間の過敏性を示すことが示唆されています。

中枢セロトニン系の5-HT2受容体の過感受性も示唆されています。

その他γ―アミノ酪酸(GABA)系の機能低下や線条体ドーパミン再取り込みの減少、中枢および末梢のカテコールアミン系の感受性亢進などが報告されています。

社会不安障害の病態生理には恐怖条件づけ反応の関与が推定されています。

全般性の社会不安障害では恐怖条件づけ反応において、すくみ行動や恐怖反応の出現に中心的な役割を果たしている扁桃体の機能亢進があり、これがSSRIあるいは認知行動療法のいずれの治療においても、治療の成功により改善することが示されています。

※参考文献:社会不安障害治療のストラテジー 小山司著