社会不安障害の治療でより効果をあげるために

失敗することにも意味がある

社会不安障害の人が実際に不安な場面に身を置く時には、1時間を目安としてなるべくその場にとどまるようにしますが、それでも場合によっては、予想外のことが起きて逃げてしまい、残念な気持ちになることもあるかもしれません。
しかし、それはそれで仕方のないことです。

社会不安障害の人が予想外のことが起きて逃げ出してしまったのは、不安階層表、実施計画などのどこかに、何か無理なところがあったからかもしれません。
または、何か他に心配なことがあるのかもしれません。
そうしたことに気付いて、より適切な計画に改善することができれば、社会不安障害の人は逃げ出してしまったという失敗も、ただの失敗ではなくなります。

社会不安障害の人のエクスポージャは、そういったことも含めて、実際にやってみることそのものに、大事な意味があります。
そうした経験を通じて、その時々でいろいろなことが起きても、大変な事態にはめったにならないし、なんとかそれなりに対処できると実感していくことが、不安症状の改善に役立ちます。

社会不安障害の人はイヤな記憶を書き換える

さらに、このような練習が少し進んだら、次の段階として、「記憶を書き換える」という方法が役に立ちます。

私たちは、イヤな体験をするとそれが記憶として残り、同じような状況に出合った時にまたそれを思い出し、その記憶を通して現実を見ていることがよくあります。

これは外傷後ストレス障害(PTSD)にとても近い状態です。
その嫌な場面に似た状況が近づくと、社会不安障害の人はそれが実際以上に危険に思えて緊張が強くなります。
また、実際にその状況にいるときにも、過去につらかった気持ちを思い出して、現実以上につらい気持ちになってきます。

社会不安障害の人はそうしたときに、「過去の記憶」と「今の現実」の違いをていねいに比べてみるようにすると、過去に縛られることが少なくなりますし、より客観的に「いま」を見ることができるようになります。

こうした「記憶」と「現実」との対比は、実際に自分が恐れている状況下で行動した後にも重要です。
社会不安障害のように不安の強い人は、行動をした後、うまくできなかったことを思い出してくよくよ悩む傾向があるからです。

こうした社会不安障害の人は、プレゼンテーションを終えた後、自分が伝えたいことが伝わったかどうかと全体的に振り返ることはせずに、このような話し方をすればよかった、もっとここまでいえばよかった、などと部分的な事柄ばかりを悔やんで、重い悩みます。
そうすると、実際の結果とはかかわりなく、自分のプレゼンテーション全体がまったくダメだったかのように思えてきて、自信がなくなってしまいます。

こうしたときに大事なのは「できたこと」と「できなかったこと」を具体的に思い出し、その事実をもとに、自分が目的をどの程度、どれくらい実現できたかどうかを検討することです。
社会不安障害の人は完璧主義になりすぎず、あまり細部にとらわれすぎずに、ほどほどでよいと自分に言い聞かせながら、何が実現できたかを具体的に考えることが大切なのです。

社会不安障害でうつ症状が出てきたときには

うつと不安の関係について少し説明しておきます。
不安が強い社会不安障害などの人は、人前で思うように行動できないために、傷ついたり落ち込んだりしがちです。
そうしたときには、気力がわかない、疲れやすい、いろいろなことに関心が持てないなど、うつの症状がでてくることがよくあります。
また、社会不安障害の人は恐怖や不安を感じる場面に無理に出て行こうとしても、うまくいかないことが多いので、やはり自分はダメな人間なんだという気持ちがtのり、ますますうつの気分が強くなってしまいます。

こうしたときには、まずうつの治療を優先するのが原則です。

うつの治療では、必要に応じて抗うつ薬や認知行動療法を用います。
不安が強い社会不安障害などの人がうつになったときの認知行動療法では、毎週の活動計画を立ててモニターするという方法が役に立ちます。
毎日無理のない範囲で何をするか計画を立て、それができたかどうか、またそれをしたことで、楽しみや達成感をどれくらい感じられたか、気分がどのように変化したかをチェックするのです。

そうすると、自分の一日の生活パターンがわかりますし、楽しい気持ちや達成感を持つためには、どのような活動を増やし、どのような活動を減らせばいいのかがわかってきます。
また、じぶんの行動が気分に同のように影響しているかも、見えてくるでしょう。
ですから計画を立てる時には、これまでに楽しめたり達成感を体験できたと感じたことのある活動を、できるだけ多く盛り込むことが大切です。

また、社会不安障害の人はエクスポージャの場合と同様に、あまり完璧主義になりすぎないように気を付けましょう。「計画を立てたらすべて完璧にこなさないといけない」「活動をしたら、全部について正確に評価しないといけない」などとは考えずに、「できることを、できる範囲でやってみよう」というくらいの、ラクな気持ちで取り組むようにしてください。

参考文献:不安症を治す 大野裕著