社会不安障害、社交不安に薬は効くか

誰でも多少のアルコールが入ると、緊張や不安が取れ、リラックスしてしゃべれるようになります。

普段おとなしい人が、人が変わったように饒舌になるのも良く経験することです。

アルコールは度が過ぎると酔っぱらってしまうのが欠点ですが、昔から社交の手段として欠かせないものでした。

アルコールが入ることによって緊張が和らぎ、みなが親しく打ち解けて話をすることができるようになります。

社会不安障害の方の中にも、少しアルコールが入ると不安や緊張が軽くなることを経験し、何か会合に出るときには必ず少量のアルコールを飲んでから出るという人もいます。

アルコール依存症の方の中には、社会不安障害が背景にあって依存になった方もかなりあるのではないかと考えられています。

ある有名な大学の教授は講義の前には必ずアルコールを摂取しないと緊張して手が震え、黒板に字が思うように書けなかったり、話ができなかったりするためアルコール依存になってしまいました。お酒に強い方で、一見酔っているようには見えないのでごまかしていましたが、学生の間では多少酒臭いので有名でした。

アルコールは大人であれば誰でも手に入る単なる嗜好品というばかりではなく、医者にかからなくても手に入る手近な精神安定剤、睡眠薬としての役割を果たしているのは皆さんもご存知の通りです。

もちろん社会不安障害に悩む方のほとんどは病気とは思わず、性格的な弱さからきていると考え、なんとか克服しようと、様々な努力をしたにもかかわらず、良くならないためあきらめている方が多いのです。

しかし、多くの方がなんとかして悩みを克服しようと様々な試みをしています。

それは催眠療法、自己暗示や性格改造に関する本、話し方教室など様々ですが、話し方教室が多少の効果がある以外は、まったく効果が無かったというものばかりです。
催眠療法に期待した方も、催眠がかからず1,2回でがっかりしてやめてしまうケースがほとんどです。

ですから、他の国同様、日本でもまた、社会不安障害の研究が活発になり治療によって良くなることが示されるまでは、医師の側も病気というよりは本人の気の持ちよう、単なるあがり症と考えて真剣に社会不安障害患者の訴えに耳を貸そうとしなかったのが現実です。

せいぜいいわゆる精神安定剤、これは現在では抗不安薬と呼ばれますが、こうした薬を気休め的に処方するのが関の山でした。

その場合にも誰にでもあることだからあまり気にしないで、どうしてもつらいときにだけ服用しなさい、癖になるからあまり飲まないほうがよい、という社会不安障害患者にとっては相矛盾するメッセージを送られてしまうことが多かったわけです。

もちろん抗不安薬は十分な量を適切に服用すれば、効果の出るのが早く有用な薬ですが、一時しのぎで問題の解決に繋がらないことは言うまでもありません。

特に緊張して動悸が強く出るタイプの方の場合には、軽い高血圧症や頻脈の治療に用いられるベータ遮断薬と呼ばれる薬も使われていました。

処方する医師の側から見れば交感神経の過度の興奮による動悸や頻脈が抑えられれば、それを自覚することによってさらに不安や緊張が高まってしまう悪循環を防ぐことができるので、効果があるはずと考えるのは当然のことです。

確かに、ベータ遮断薬は不安や緊張が高まる場面の前に服用すると動悸や頻脈を多少抑える効果がありますが、それだけでは社会不安障害全体の症状の改善に繋がらないことが明らかになっています。

社会不安障害に対してSSRIが効果的だということが示されるまで、こうした訴えで訪れる社会不安障害の患者さんに対して最もよく出されていたのが抗不安薬とともにベータ遮断薬でした。

今でもベンゾジアゼピンと呼ばれる系統の薬が主流となっている抗不安薬が実感できるため好む医師が多いのも事実です。

しかし、今では日本を含め世界中のどの国においても脳のセロトニンの働きを強めるSSRIと呼ばれる薬による治療が中心になっています。

※参考文献:社会不安障害 田島治著